痛みのない暮らしを取り戻す

ペインクリニックは痛み緩和に加え生活の質を上げる治療を行う

意外と多い「記憶による痛み」
意外と多い「記憶による痛み」

 私は痛み専門の治療をして25年以上になります。これまで6万件近くの痛みの治療を行ってきました。

「ペインクリニック」という言葉は聞きなれないかもしれませんが、主に痛みを除去する治療を施します。痛みには、腰痛、頭痛、片頭痛、心疾患や内臓疾患による背中や胸の痛み、帯状疱疹(ほうしん)、ヘルニア、ぎっくり腰、骨粗しょう症性骨折など、実にさまざまな種類があります。

 多くの患者さんは、最初から痛みの治療(ペインクリニック)に来られるというよりは、ほかの診療科で診療をしてもらった後、なかなか痛みが引かないため、ドクターショッピングをしたり、困り果てた末に私たちの元に来られます。

 その中の一人、60代男性のSさんは、椎間板ヘルニアの手術後も痛みが続いているというお悩みをお持ちでした。手術をするほど大変な思いをされていますから、当然、術後も重たいものを持たないようにとか、姿勢など生活習慣に気をつけておられました。しかし、痛みで生活に支障があるほどだということで、硬膜外ブロックの処置をしました。

 硬膜外ブロックとは、脊椎(背骨)を覆う膜である硬膜の外側に、局所麻酔薬の注入で痛みを緩和する処置です。血管の内径を2倍に拡大することで、8倍の血流量を流せます。これにより、痛みの悪習慣である発痛物質の大掃除ができ、痛みがなくなるのです。感覚神経だけを鈍らせて運動神経は鈍らせないので、外来で処置を受けられます。

 痛みの中には「記憶による痛み」というものがあるのですが、実はこれが意外と多く、私は痛みに悩まされている患者さんの約9割は記憶による痛みが原因だとみています。硬膜外ブロックは「痛みの記憶」の書き換えができるのです。

 Sさんは、1カ月に1回程度の硬膜外ブロックを7回ほど行った後、痛みに悩まされることがなくなり、今では元気にお仕事に復帰されています。

 このように、ペインクリニックは、痛みをとるという処置だけのようですが、実は患者さんのQOL(生活の質)を上げる治療なのです。ただ、局所麻酔とはいえ、鎮痛剤を使用するため、専門医の熟練した技術が必要です。

西本真司

西本真司

医師になって34年。手術室麻酔、日赤での緊急麻酔、集中治療室、疼痛外来経験後、1996年6月から麻酔科、内科のクリニックの院長に。これまでに約5万8000回のブロックを安全に施術。自身も潰瘍性大腸炎の激痛を治療で和らげた経験があり、痛み治療の重要性を実感している。

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