サル痘は本当にセックスでうつる病気なのか? WHOが調査開始

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 天然痘と似た症状の「サル痘」が突然、世界中で見つかり、大騒ぎになっている。世界保健機関(WHО)は「疑い例」も含めると感染者は3000人を超えるという。50年以上アフリカの一部地域の風土病だったサル痘が30カ国以上で見つかったのだから騒ぐのは当然だが、気になるのは一部の患者の精液からサル痘ウイルスが発見され、WHОがサル痘を性感染症と疑い調査している点。本当にセックスでうつる病気なのか? 「性感染症プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

 サル痘は、サル痘ウイルス感染による急性発疹性疾患のこと。日本の感染症法では、デング熱、マラリア、日本脳炎などと同じすべての医師に届け出義務がある4類感染症に分類されている。流行地域はアフリカ中央部から西部で、自然宿主はアフリカに生息するネズミやリスなどのげっ歯類とされている。

 通常は1~2週間の潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後、発疹が出現する。発疹は典型的には顔面から始まり、体幹部へと広がる。水疱、膿疱化した後、発症後2~4週間で治る。発疹は皮膚だけではない。口腔、陰部の粘膜、結膜や角膜にも生じることがある。特に初期においては水痘や麻しん、梅毒といったその他の発疹症との鑑別が困難なことがあるという。

 致命率は0~11%とされ、小児らで重症化、死亡した症例報告もあるが、先進国では死亡例は報告されていない。これまでまれに流行地域以外でも、流行地からの渡航者らで発生した例はあるが、今回のように世界同時多発的に発生したことはない。

■ドイツとイタリアの男性患者の精液からウイルスを検出

 今回、気になるのはこの病気が主にセックスでうつる性感染症ではないか、と疑われていることだ。イタリアとドイツの一部のサル痘患者の精液からウイルスのDNAが検出されたとの報告が出ているからだ。この中には、患者1人の精液から見つかったウイルスが他の人に感染し、複製可能であることを示す、研究所で検査したサンプルが含まれているという。

 しかも、米国や欧州で確認されたクラスターの患者の中には流行地への渡航歴がなく、ゲイやバイセクシュアル男性などの同性と性的接触を持つ人(MSM)が目立った。そのため、MSMの人たちに多い性感染症ではないか、という見方もある。

「現時点で、この病気は皮膚や寝具に触れたり、食器を共有したりといった濃厚接触によって広がる感染症とされています。いまは情報が少なすぎて性感染症であるかどうかはわかりません。ただ、注意は必要です。というのも最近の性感染症は精液からウイルスのゲノムが見つかることは珍しくないからです。かつてエボラ出血熱と言われていたエボラウイルス症は平均の致死率が50%の怖い病気ですが、感染経路はエボラに感染して亡くなった人の体液や血液で、精液にも感染力のあるエボラウイルスが隠れていてセックスでうつることが確認されています」

 妊婦が感染すると水頭症の子供が生まれるリスクが高まるジカ熱も同じだ。2016年、ブラジル渡航中にジカ熱を発症した46歳のフランス人男性が、帰国後にパリ在住の24歳の女性とオーラルセックスをして感染させた事例が報告されている。

「この男性患者はブラジル滞在中の2月7日に発症、10日にフランスに帰国したときには症状は消えていました。しかし、女性はこの男性と性行為をした3日後の23日にはジカ熱特有の症状に襲われたのです。発症24日後に男性の精液検体から感染能を有するウイルスが分離されたと報告されています。また、男性と女性から得られたサンプルを用いた全遺伝子シークエンス解析結果から、男女間の性行為によるジカウイルス感染経路が明らかになっています」

 新型コロナウイルスも精液の中から発見されている。ただし、それが他人に感染させるだけの能力があるか否かが重要だ。

「その意味で、精液から発見されたサル痘ウイルスゲノムが本当に他人を感染させる能力があるかの見極めが重要です」

 なお、仮にサル痘が性感染症だった場合、主にMSM性感染症だと考えるのは偏見だという。

「報道を見ると確かにMSMの人が多いようですが、それは発見当初のエイズがそうであったように、たまたまいま目立っているだけで、男女間のセックスでもうつるのかもしれません」

 サル痘の日本上陸は時間の問題。仮に性感染症でなくても、生殖細胞に何らかの影響を及ぼそうとしているとしたら、人類にとって恐ろしいことだ。

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