年をとると性欲も衰え、弱々しく、枯れてくる──。若い頃はそう思っていたが、実際に「いい年」になっても異性を求める気持ちは変わらない。そんな元気な60代は性感染症への備えが必要だ。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」院長の尾上泰彦医師に聞いた。
「いまは60代の患者さんはフツーです。70代は少ないもののいますし、80代もまれですがいらっしゃいます」
厚労省が発表した5歳刻みの性感染症報告数の年次推移がそれを裏付けている。性器クラミジア感染症に感染した60歳以上は平成11年に163人だったのが、令和2年には324人とほぼ倍増。淋菌症も108人から161人に増えている。
いまは60歳以上でも元気なうえ、SNSの発達などでより多くの人との出会いが可能になったからだという。
「若い女性と出会って喜んでいたら“お土産”をもらったという60代以上は多い。家族がいる患者さんの場合は、自覚症状がなくても性感染症の検査を受ける人が多くいます。お孫さんに感染させてはいけないと思うのでしょうかね」
とはいえ、大抵の60代は感染の不安を抱えながらも検査を受ける勇気がないという。
「これが最も問題です。感染に気づかないうちに大事に至る場合がある。典型は“いきなりエイズ”です。自分がHIVに感染していることに気づかずに、エイズを発症してから気づくことです。ご存じのように、エイズはHIVに感染して発症しますが、感染後すぐ発症するわけではありません。治療せず放置していて無症状期間を経て発症するのです。ですから、60歳を過ぎていきなりエイズを発症するケースも多いのです」
こうした悲劇を起こさないためにも、心当たりがある出来事があれば、まず検査を受けるべきだと尾上医師は言う。
「健康診断で血液検査を受けているから大丈夫という人がいますが、間違いです。性感染症の検査は極めてプライベートなことなので、オプションとして個人が選ばなければ健康診断では検査しません。恥ずかしくて検査を受けたくない、という人は郵送検査を受けるのも手です」
60歳からの健康術