コロナ第7波で自宅療養者が急増中 死を招く「エコノミークラス症候群」に気をつけろ

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 新型コロナウイルス感染が再び拡大し、第7波に突入した。14日には全国の新規感染者数が9万7788人となり、都内でも7月末には新規感染者数が5万人を超えると予測されている。感染者の増加に伴って「自宅療養者」も増えている。ほとんどが軽症でそのまま回復するが、療養中にほかの病気を発症し、深刻な事態に至る危険がある。「エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)」と呼ばれる、死に至る可能性が高い病気だ。東邦大名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

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 自宅療養が解除されるのは、発症日から10日間が経過し、かつ症状が軽快(解熱剤を使用せずに解熱し、呼吸器症状が改善傾向)してから72時間が経過した場合(無症状では検体採取日から7日間経過)とされているから、およそ2週間弱は自宅にこもって療養しなければならない。

 この療養生活が、「エコノミークラス症候群」を引き起こす可能性があるという。

「エコノミークラス症候群は、旅客機の窮屈な座席に長時間座ったままでいると発症するリスクがあることから名付けられた疾患で、足の静脈に血栓ができる『深部静脈血栓症』と、その血栓が血流に乗って心臓まで移動して、肺の動脈が詰まってしまう『肺血栓塞栓症』の総称です。肺血栓塞栓症になると血流や呼吸が障害されるので、重症化すれば意識を失ったり、ショック状態になって死亡するリスクが高いといえます。この病気が多い米国では年間4万人弱が死亡しています」

 心臓から全身に送り出される血液は、その約70%が重力によって下半身に集まるとされている。下半身にたまった血液は、ふくらはぎの筋肉が収縮してポンプのように働くことにより、静脈から心臓に戻される。ふくらはぎの動きが少なくなると、血液は下半身にたまったままになってしまう。

「ふくらはぎをあまり動かさない状態が続き、下肢の静脈で血液がうっ滞すると、血栓が形成されやすくなります。血栓のほとんどは小さなものですが、血管内で固まって大きくなるケースもあり、これが肺動脈に詰まると死亡につながる危険があるのです。エコノミークラス症候群は、長時間の飛行以外に、災害時の避難所や車中泊でも発症するケースが知られています。また、かつて私が実施したICUにおける調査でも、股関節や膝の整形外科手術を受けた人や長期臥床の重症患者は、適切な予防法なしでは2~3割の人に静脈血栓が形成されていることがわかりました。ふくらはぎの動きが少なくなってしまう環境は、エコノミークラス症候群のリスクをアップさせるのです」

■利尿薬を服用している人はより危険

 新型コロナで自宅療養している人も、活動量が減って、ふくらはぎをあまり動かさない期間が長く続けば、エコノミークラス症候群を起こしかねない。昨年から、日本静脈学会も「災害時と同様に同症候群が増える恐れがある」と注意喚起している。

「しかも、猛暑の季節は脱水症状の傾向が強くなって血液が固まりやすくなるため、なおさら注意が必要です。また、高血圧症や心不全で利尿薬を服用している人も気を付けてください。脱水傾向が強くなって血栓ができやすくなります」

 さらに、新型コロナウイルス感染症そのものが、エコノミークラス症候群をはじめとした、血栓症のリスク因子であることもわかっている。

「新型コロナウイルス感染では、炎症で血管内皮細胞が傷ついたり、炎症性サイトカインストームなどによって血液が固まりやすくなり、血栓が作られやすい環境になります。実際、約100万人の新型コロナ感染者を対象としたスウェーデンの研究では、深部静脈血栓症や肺塞栓症を起こすリスクが状況により5~46倍に増加していました。厚労省が発表している『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き』でも、重症感染症および呼吸不全は、深部静脈血栓症の中等度リスク因子であるとしています」

 たとえコロナが軽症でも、療養中にエコノミークラス症候群で命を失わないよう、しっかり予防策を講じたい。

「何より大切なのは、ふくらはぎを動かす適度な運動と、脱水を防ぐためのこまめな水分摂取です。体を動かせる状態であれば、室内を歩き回り、スクワットやストレッチを行うといいでしょう。発熱などで体を動かせないときは、寝転がったり腰掛けたまま足の甲を伸ばしたり、爪先を上げる動作を20回程度こまめに繰り返すと効果的です」

 足がむくんだり、痛みや違和感が生じた場合、足の静脈に血栓が詰まって血流が滞っている可能性がある。すぐに医療従事者に相談したい。

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