Dr.中川 がんサバイバーの知恵

古村比呂さんは親子の絆が深まった がん告知で子供に伝えたい「3つのC」

古村比呂さん
古村比呂さん(C)日刊ゲンダイ

 女優の古村比呂さんが「徹子の部屋」に出演され、子宮頚がんを患ってからの家族関係について語り、話題を呼んでいます。古村さんは56歳で、がんが見つかったのは10年前。当時、3人の息子は20歳、19歳、15歳になる年で、いろいろなことが理解できる年齢です。それでも、母としてがんを子供に伝えることは少なからず葛藤があったと思います。

 今回のテーマは、これです。がんと診断されたとき、子供や親、パートナーにどう伝えるか。毎年100万人ほどの新規がん患者のうち、3人に1人が64歳以下だけに、家族への告知、特に子供の問題は切実です。厚労省の調査では、がん患者の子供のうち14歳以下は3割が精神的なダメージや孤立傾向があることが明らかになっていますからなおさらです。

 では、どう伝えるか。3つのCを丁寧に誤解がなく説明することが大切です。

 1つ目は、cancer=がんであること。今や未就学児でさえ、親のスマホやタブレットであれこれ調べる時代です。がんを隠すと、ネットで仕入れた不確かな情報でかえって不安を増幅させる恐れがあります。

 2つ目は、catchy=伝染です。がんは伝染しないことを伝えましょう。幼いと、病気はばい菌によって感染するものというイメージから、病気の人を避けたり、怯えたりすることがあります。しかし、がんはそうではありません。子供を孤立させないためにも、子供の周りに正しい情報を伝えるためにも、がんがうつる病気でないと説明しましょう。

 3つ目は、caused=原因で、子供のせいではないということをしっかり伝えること。病状によっては、触れられてほしくないこともあります。そんなとき、何げなく「触らないで」というと、子供は親に嫌われた、悪いことをしたと、自分を責めかねません。そうではなく、病気によってそうなることがあるのを、子供に分かるように伝えるのです。

 古村さんは「私が死んだら、子供たちはどうなるのか」と不安だったそうですが、きちんと説明したといいます。ピンピンしているのに、なぜ子宮を全摘するのか。それに対し、三男の「悪いものなら早く取って元気になればいいよ」という言葉に救われたそうで、親子の絆が深まったといいます。

 パートナーもそう。悪い話はパートナーにしたくないという方もいますが、できるだけ情報を共有するのがいいと思います。親も基本的に同じです。

 ただし、離れて暮らしていたり、認知症だったりすると、事情が異なるため、疎遠さに応じて情報共有の程度を緩めるとよいでしょう。

 あるすい臓がんの50代男性は、自分の死を恐れるのではなく、家族や友人が嘆くことを恐れ、亡くなる前日まで妻や小学生の子供はもちろん、来客とも会話をされていました。私からご家族に説明したことはなく、すべて本人が、私の話した内容をかみ砕いて家族や友人に説明していたのです。ぼくもがんで死にたいと思った、印象深い方です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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