在宅診療を受けるにはいくらかかるのか…すべて保険適用の医療行為

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「在宅診療はお金がかかる」という話は本当か。年間200人超の看取りを行う「しろひげ在宅診療所」(東京・江戸川区)の山中光茂院長に聞いた。

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「医療には『自費診療』制度があり、美容外科や歯科医療などでは一部公的保険が利かない仕組みがあります。しかし、在宅診療は基本的には『すべて公的医療保険適用』の医療行為であるため、他の医療と比べて特別に過剰なお金がかかるわけではありません」

 在宅診療の定義は、24時間365日必ず対応できること、患者が病院に通院できないという程度の重度な身体的・精神的な状態であることだ。

「1カ月にかかる医療費には往診費用に加えて、24時間しっかりとサポートする約束でもある『在宅時医学総合管理料』を毎月いただくことになります。月2回の訪問という標準的な日程で考えると、保険料が1割負担の患者さんだと5000~7000円ぐらいが基本となります(ただし病院の実績により費用が変わる)。それに、緊急の往診がプラスされると、そこに昼か深夜かに応じて数百円~3000円ぐらいまでの往診料が加算されます。在宅診療で用いられるガーゼなど最低限必要な医療物品は医療機関の持ち出しで、患者への請求はありません」

 在宅診療の対象は重症度が高い患者が多い。そのため月に何度も訪問したり、在宅酸素を導入したり、麻薬が必要となる場合がある。その費用は積算される。

「ただし、1~2割負担の方の医療費上限は1.8万円で、それ以上はかかりません。がんの末期や難病などの方をサポートする訪問看護やリハビリは、介護保険ではなく医療保険の適用になるので、そのサービスも上限の1.8万円の枠内に収まります」

 一方、病院では保険診療に加えて、差額ベッド代、食費やアメニティー費用など月々10万円以上はかかる。それに比べて、重症度の高い患者を在宅診療で手厚くサポートすることは、特別過剰な費用がかかるわけではない。

「国が在宅診療を積極的に進めてきた背景には、不必要で非効率な入院加療から在宅診療に患者を移行させて医療費削減を狙った面もあるのです」

 独居や老老介護などの場合には、その生活をしっかりと支えるための介護保険の制度がある。重症度が高い患者を担う在宅診療が成立するためには、医師による定期的な訪問以上にヘルパーやデイサービス、訪問看護などの介護環境の整備が何より重要となる。

 介護用ベッドやポータブルトイレの導入、ショートステイの利用なども、患者のADL(日常生活を送るために最低限必要な動作)に合わせた介護保険を利用することで家族の負担感は病院通院よりも減らせるという。

「もちろん、介護保険にも収入に応じた上限があり、どのような経済環境や家庭環境の方でも費用負担を気にすることなく、十分な介護環境を迅速に整えることができます」

■苦しみを医療で和らげることが延命効果につながる

 金銭面以外で多い不満や心配事は、「痛いとか苦しいとかを家で見るのがつらい」「自分で介護をし続ける自信がない」などだ。

「私もこれまでがんの末期の方々を1000人近く自宅でお看取りをしていますが、最後まで『苦しんで亡くなる』という人はほとんどいらっしゃいません。苦しみや痛みに対して『緩和』をすることが、在宅医師としての責任であり、役割です。それは、高度な医療の知識と技術に基づくものです。麻薬で寝かしつけるような単純なものではなく、苦しみを医療で和らげることにより、延命効果にもつながるのです」

 また、介護環境に苦しんでいるならば、介護の中心であるケアマネジャーと家族とが何度も会議をしながら、一時的にレスパイト入院をするとか、ショートステイを利用するとか、介護度を上げてヘルパーの回数を増やすなど、いろいろな形で介護環境を充実させて家族負担を取り除くことが必要だ。

「私たちの患者には、重症度が高くて寝たきりで身寄りがまったくない、という方々も少なくありません。医療や看護、介護がしっかり介入することで、ひとりで最後の命を自宅で過ごしたいと希望する方に寄り添って、生活に彩りをつける役割も私たちは担っています」

 患者の身体的、精神的苦しみを在宅診療で緩和できなかったり、家族に介護負担がかかるのは、「在宅診療」制度の問題でなく、在宅で看取るまでの覚悟も持たず、体制を作る医師もない“なんちゃって在宅診療”のクリニックが跋扈しているからだと山中医師は言う。

「在宅診療への思いも技術もない医師が形式的に診察をし、困ったときは救急搬送というのは在宅診療の本当の役割を放棄してしまっています。だからこそ、『ちゃんとした在宅診療』を選ぶことで、本人の苦しみや痛み、そして家族の介護負担も取ってあげられることにつながるのです」

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