感染症別 正しいクスリの使い方

【細菌性食中毒】カンピロバクターは少ない菌量でもヒトに感染する

生や加熱不足の鶏肉が原因となるケースが多い
生や加熱不足の鶏肉が原因となるケースが多い(C)日刊ゲンダイ

 今回は、細菌性食中毒の中でも近年、発生件数が最も多いとされている「カンピロバクター食中毒」についてお話しします。

 カンピロバクターによる食中毒は年間約300件、患者数2000人程度で推移していましたが、コロナ禍でこの2年は減少しています。原因菌であるカンピロバクターは、鶏、豚、牛の腸内に生息している細菌です。また、犬や猫などのペットの糞便にも存在するため、注意が必要です。ヒトや動物の腸管内でしか増殖しない、乾燥に弱い、通常の加熱調理で死滅するなどの特性を持っています。潜伏時間が一般に1~7日間とやや長いことが特徴です。また、数百個程度と比較的少ない菌量でも、ヒトへの感染が成立することも知られています。

 特に生の状態や加熱不足の鶏肉が原因となるケースが多く、平成27年に国内で発生したカンピロバクター食中毒のうち、原因食品として鶏肉が疑われるもの(鶏レバーやささみなどの刺し身、鶏肉のタタキ、鶏わさなどの半生製品、加熱不足の調理品など)が92件認められています。

 症状は他の細菌性食中毒と同様、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、悪寒、倦怠感などです。多くの患者は1週間ほどで治癒します。死亡例や重篤例はまれですが、カンピロバクターに感染した数週間後に、手足のまひや顔面神経まひ、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症するケースがあることが指摘されています。

 一般的には抗生物質は処方されず、対症療法のみで治療が行われます。脱水に対する経口補水液や点滴、吐き気止めや解熱剤などがよく用いられます。重症化している場合などは抗生物質が処方されるケースもありますが、その場合は、マクロライド系と呼ばれるタイプの抗生物質が第一選択として処方されます。

 カンピロバクター食中毒の予防は、食肉を十分に加熱調理(中心部を75度以上で1分間以上加熱)することが重要です。意識して、未加熱または加熱不十分な鶏肉料理の摂取を避けるのも効果的です。また、食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行い、食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱うこと、食肉に触れた調理器具は使用後に洗浄、殺菌を行うことも大切です。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

関連記事