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アメリカでも…国民の意に反した中絶禁止の裏に宗教の存在が

トランプ前大統領により超保守化した最高裁(C)ロイター
トランプ前大統領により超保守化した最高裁(C)ロイター

 アメリカ最高裁判断により、人工妊娠中絶が違法とされて1カ月が過ぎました。折しも日本では政治と宗教の関係が大きくクローズアップされています。そこで今改めて注目したいのは、アメリカ人から中絶の権利を奪い取ったのは、政治と強力に結びついた宗教だったという事実です。 

 アメリカ人の過半数は、中絶は合法であるべきと考えています。特に18~29歳の、これから子供を産み育てる年齢の若者たちは、75%が中絶を支持しているという数字も出ています。それにも関わらず違法とされてしまいました。

 そして何よりも国民に衝撃を与えたのは、女性の権利が50年前に後退した驚きと、権利を「失う」という、アメリカ人としては初めての体験の異常さです。

 この判断が下ったのはなぜかというと、トランプ元大統領により超保守化した最高裁では、保守的な意見の方が圧倒的に通りやすくなったからです。

 その背景にはキリスト教の存在があります。特にカトリック教徒とプロテスタント福音派は、教義に反するとして中絶禁止の立場を取っています。

 中絶はおよそ50年前に合法化されましたが、一部の信者が激しい反対運動を始めたのを見て、「これは使える」と考えたのが保守政治家たちでした。宗教を味方につければ非常にありがたい票田を得られるというのは、どの国でも同じです。そこで当時の大統領候補のニクソン氏と共和党が「中絶禁止」を叫び始めました。以来中絶は、保守陣営に欠かせない政治案件となったのです。

 そこで使われたスローガンが「家族の大切さ」でした。一見聞こえがいいのですが、彼らのいう家族は伝統的な父、母、子供という核家族で、シングルマザーの家庭や、LGBTQの家族は含まれていない。旧来の差別的な価値観です。

 この「家族」の文脈が、社会の激変を恐れる保守的なアメリカ人にアピール。この流れで保守政治家は、LGBTQの権利などにも反対し続けています。最近ではトランプ氏も、この文脈を利用して当選しました。

 つまり、これはただ中絶だけの問題ではありません。保守政治と一部の宗教がお互いを利用することで、今後同性婚や避妊など、他の権利も取り上げられてしまう恐れが現実になっています。

 日本でも、同性婚や夫婦別姓が実現しないのは、宗教の影響という論調が出始めているようですね。その真偽に疑問を感じる方には、アメリカの例を見てくれと言いたいです。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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