がん治療最前線

対がん新兵器「ハイパーサーミア療法」が高齢患者にやさしい理由

村田会湘南大庭病院の小林一郎医師
村田会湘南大庭病院の小林一郎医師(提供写真)

 100歳以上の日本人は8万人を超え、いまや人生100年時代が現実のものになってきた。その原因にがんの制圧がある。2人に1人が罹患するがんも、あらゆる医療技術を総動員して、がんの標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法)の成績を高めることで少しずつ追い詰め、糖尿病などと同じようにコントロールし、共生できつつあるからだ。そんななか、がんと闘う新たな武器が全国のがん治療専門医から注目されている。「がん温熱療法(ハイパーサーミア療法)」だ。今年1月からこの治療法をスタート、自ら治療に携わる村田会湘南大庭病院(神奈川県藤沢市)院長で元東海大学呼吸器内科教授の小林一郎医師に話を聞いた。

 村田会湘南大庭病院は2年前に開院したばかりの新設の病院だ。療養病棟40床と地域包括ケア病棟40床の2つの病棟を持ち、急性期治療が終了し継続しての慢性期治療を必要とする患者の受け入れや、在宅に戻る前の継続治療・リハビリ・在宅復帰支援を行っている。

「私たちの仕事は地域の方々の健康を守ることです。高齢化が加速するなか、増え続けるであろう地域のがん患者の方々とどう向き合うかは大きな課題です。がんの最大のリスクは年齢です。高齢になればなるほど治療は困難となります。当院は急性期病院でないので手術や抗がん剤治療、放射線治療はしません。しかし、ガイドラインに沿った治療を行う大学病院やがん治療拠点病院などと連携。その後のケアとして高齢ながん患者にも優しい先進的なこの治療法に注目しているのです」

 同院ではすでに分子標的治療薬でも抑えられなかった肺がんの女性の腫瘍マーカーが下がり始めるなどの事例が出始めているという。

■がん細胞だけを選択的に攻撃

 ハイパーサーミア療法とは、がんの塊が42.5度以上の熱に弱いという性質を利用してがんを治療する方法のこと。体の外側からがん細胞が潜む部位にAMラジオで使われる高周波電流を流してがんの塊を加温することで、死滅させる。

 1990年には放射線と併用することを条件に「サーモトロン-RF8」を用いたハイパーサーミアが保険適用に。その後、研究が進み、現在では抗がん剤との併用及び温熱単独治療でも保険適用となった。最新の「サーモトロン-RF8 GR Edition」はコンピューターによる自動制御などにより、胃がん、肺がん、肝臓がんといった、体の奥底に潜むがんの塊への安定的な加温ができるようになり、効果も向上している。

「この治療法が優れているのは、結果的にがん細胞だけを選択的に攻撃して正常細胞へのダメージはあってもごく少ないことです。正常な細胞は熱が加わると周囲の血管は拡張して血流が増えて、熱を外に逃がします。一方、がんの周りにある血管は、急ごしらえのもろい新生血管であるため、血管が拡張せずに熱がこもってしまう。結果、がん細胞は正常細胞よりも早く熱の影響を受けて壊れてしまうのです」

 この治療法のメリットはほかにもある。併用すると抗がん剤の効果がアップすることだ。

「熱を加えるとがん細胞を覆う細胞膜の透過性が高まり、抗がん剤の取り込み量が増え、結果としてがん細胞内の抗がん剤濃度が高まります。さらにがん細胞が抗がん薬によるDNA損傷を回復しようとするのを、温熱が阻害する。この2つの理由から抗がん剤の効果がアップするのです」

 つまり、ハイパーサーミアを併用することで抗がん剤の効果を高めることができるわけだ。

「あくまでもガイドラインに沿った治療を第1に行うことが大切ですが、高齢者で体力がない人、副作用の強い人などでは、この治療により抗がん剤を通常より減らしたりすることも今後は検討されると思われます。しかも、抗がん剤の効果を高める以外にもハイパーサーミア療法による加温でその人が持つ免疫力が高まることがわかっています」

 うれしいことにこの治療法はほとんどのがんに効果があり、入院は不要。患者は治療器に約40~50分間横たわるだけでよく、週に1~2回のペースで通院治療できる。公的医療保険の適用となるため、治療費も安い。

 村田会湘南大庭病院では1日6人で週5日、最大30人のがん患者を受け付けている。

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