「自分が受けている治療法は正しいのか」「最先端のもっと良い方法があるのではないか」「そもそも診断された病名や病期は間違いないのか」──。がん治療を受けている患者やその家族が必ず一度は抱える疑問だ。そんなとき別の医師に意見を求めるのがセカンドオピニオンだ。近年はがん医療を行う病院では「セカンドオピニオン外来」を設置しているところが増えている。しかし、やみくもに行うと混乱から時間だけが過ぎていき、治療機会を失うことにもなりかねない。正しいセカンドオピニオンのやり方について、東大医学部卒の医療未来学者で、「Die革命 医療完成時代の生き方」「未来の医療年表 10年後の病気と健康のこと」などの著書を持つ奥真也医師に話を聞いた。
セカンドオピニオンを受ける前に多くの人ががん治療に抱いている2つの誤解を解消する必要があります。その1つがセカンドオピニオンの目的です。
よく、セカンドオピニオンは、担当医を代えたり、転院したり、治療を受けたりするためのものだと思っている方もいらっしゃいますが、間違いです。あくまでも納得のいく治療法を選択できるように、治療の進行状況、次の段階の治療選択などについて、現在、診療を受けている担当医とは別に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることなのです。
別の医師から別の視点で診断や治療法を検討してもらっても結果的に担当医と同じ結論であることは少なくありません。しかし、がっかりすることはありません。両者が同じ見立てということはそれが常道であるということです。患者さんは病気に対する理解が深まり担当医への信頼強化につながるはずです。
仮にセカンドオピニオンで別の治療法が提案された場合でも、治療の選択の幅を広げることができたと考え、担当医に報告して相談しましょう。その結果、より納得して担当医の治療に臨むことができるはずです。
実はこのように納得することこそが最も重要な事柄です。「病は気から」と言います。それは本当で、偽薬でも本人が本物の薬と思い込んで飲み続ければ効果が上がることは科学的にも証明されています。信じる者は救われる。それが医療を受ける患者の正しい姿勢です。
治療を行う担当医を信じてこそ治療効果は上がるのです。
■「標準治療」こそが最高の治療法
2つ目は「世の中には知られていない凄いがん治療法があって、お金さえ払えば受けられる」という誤解です。
私は医療未来学者を自認しています。東大付属病院などの大学病院、製薬会社、医療機器メーカーなどで働き、最先端の医療を研究する研究者や組織と関わり、どの分野の医療はどのくらいの時間軸で実用化していくか、理解しているからです。そのせいか、「人の知らない凄いがん治療法を知っているに違いない。教えて欲しい」という人がいます。
残念ながら、そうした治療法は存在するとしても、まだ実用化に向けての研究過程のものであり、一般の患者さんが受けられる治療法ではありません。治験という形で有効性や安全性を検証している段階なのです。
それよりも、全国どこででも受けられる「がん標準治療」こそが多くの人にとってもっともよい治療法です。なぜなら、標準治療は世界中の手術、薬の中から科学的根拠のある治療法を集めて専門家がさまざまな角度から検討した末に作られた「ガイドライン」に沿った治療だからです。「標準」といっても、「並の治療」「治療として劣る」という意味では決してありません。
失敗しないセカンドオピニオンの受け方 医療未来学者が伝授
そうした誤解を払拭したうえで、正しいセカンドオピニオンを受けるにはどうしたらよいか。私なりに7つのポイントを考えてみました。
■迷ったら「がん相談支援センター」に相談
どこでセカンドオピニオンを受けたらいいかわからない場合には、がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」に聞くと、その地域のセカンドオピニオン外来を行っている病院や、専門領域などの情報を教えてくれます。「手術よりも放射線治療が希望」といった、具体的な治療方法の希望があれば、がんの放射線治療を専門とする医師にセカンドオピニオンを受けるという方法もあります。
■セカンドオピニオンに必要な手続きの確認
セカンドオピニオンを受ける医療機関が決まったら、そこの窓口に連絡して、必要な手続き(受診方法、予約、費用、診察時間、必要な書類など)を確認します。セカンドオピニオン外来は、基本的に自費診療です。病院ごとに費用が異なります。
■手術数や治療実績の多い病院で聞く
ガイドライン治療が普及している日本では、全国どの病院であっても検査や診断、治療のプロセスは基本的に同じです。異なるのは経験です。ですから、病院のホームページなどで公表されている手術件数や患者数を見て担当医の病院よりも経験豊富な病院でセカンドオピニオンを受けましょう。スタッフも多く、日々さまざまな症例をチームで検討しているので、より多くの視点で病状を見ることができています。
■専門医資格を持つ若い医師に聞く
経験が豊富な病院で聞くことをすすめたので、医師もベテランの方がいいと思われるかもしれません。しかし、そうとも限りません。私はその領域でよく勉強していて新しい情報にも敏感で、臨床の経験も多い40代の専門医資格を持つ医師に聞くのがよいと考えます。よく、准教授より教授の方がよいのではないか、と思う人がいます。しかし、知識や情報があってもそれは研究レベルのもので実際の治療には使えないケースも少なくありません。大学での肩書に惑わされないようにしましょう。
■聞きたいことを3つ程度に絞り、頼りになる人を連れていく
セカンドオピニオンは有料とはいえ、患者が納得するまで何時間でも話を聞けるわけではありません。聞きたいことを3つ程度に絞って先生の話を聞く姿勢を保ちましょう。自分の病気の感想を語っているうちに時間切れとなり、医師の話が聞けなかった患者さんは少なくありません。
また、元の担当医の話をよく聞いてなくてセカンドオピニオンに臨み、担当医と同じ話を聞かされる場合もあります。セカンドオピニオンの目的やこれまでの担当医の説明内容について、事前に必ず自分で確認しておきましょう。できたら当日は頼りになる家族や、ある程度医療知識のある知人に同席してもらうのもよいでしょう。
■セカンドオピニオンを繰り返さない
患者さんやその家族の方の中には、自分が望む回答をしてくれる医師を求めて、セカンドオピニオンを繰り返すケースがあります。これはあまりすすめられません。がんは増殖が速く、治療の開始が遅れれば状態はどんどん悪化していきます。先述したようにまともながん治療を行う医療機関であればよいのです。
■セカンドオピニオンを受けた後
セカンドオピニオン後は担当医に会い、あなたの病気や治療方針についての考えが変化したかどうか報告したうえで、今後の治療法について相談しましょう。間違っても「これまでの担当医はもう関係ないや」と無視してはいけません。これまでの治療内容や経過などを紹介状などで引き継ぐことになるからです。
治療はセカンドオピニオン先の病院で行い、紹介元医療機関では治療後の経過観察を行う場合もあります。つまり元担当医は無関係ではなく、治療を支援してくれる医療者であることに変わりありません。関係をきちんと保っておくことが大切です。
▽奥真也(おく・しんや) 1962年生まれ。医療未来学者、医師。大阪府立北野高校を経て、東大医学部卒。仏国立医学研究所へ留学後、会津大学教授などを務め、製薬会社、医療機器メーカーなどに勤務。著書に「医療貧国ニッポン」(PHP新書)、「人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点」(晶文社)などがある。