赤ちゃんが生まれる一歩手前の「切迫早産」に注目の新治療が

写真はイメージ(C)takasuu/iStock
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 妊娠の順調な経過で赤ちゃんが生まれるのは妊娠37~42週未満。妊娠22週から37週未満で生まれるのが「早産」で、「切迫早産」は、子宮の出口が開きかけ、赤ちゃんがかろうじて妊婦のお腹にとどまっている、まさに出産の一歩手前だ。

 早産は赤ちゃんへの合併症のリスクがあり、あまりに週数が早いと生命に関わることもあるため、早産回避のためのさまざまな手が打たれる。感染対策、喫煙やアルコールといった早産を起こしやすい生活習慣の改善などだ。済生会横浜市東部病院産婦人科の佐々木拓幸医長が言う。

「前回の妊娠が流産や早産の場合、今回も早産になりやすい。検査で子宮の入り口が緩む子宮頚管無力症や、子宮頚管長(子宮の入り口の長さ)が短いなど早産を起こしやすい要因が見つかれば、子宮の入り口を糸で縫い縮める子宮頚管縫縮術を予防的に行います。ただ、これが安全に行える期間は限られています」

 そもそも切迫早産になるかどうかは、事前にわからないことも多い。初産ならなおさらだ。つまり、予知して治療が難しい。そこで切迫早産が判明すれば、速やかな対処が重要となってくる。

 切迫早産は、子宮内で羊水とともに赤ちゃんを包んでいる膜が破れて羊水が流れ出る「破水」で判明する場合もあれば、破水がない場合もある。

「破水のない切迫早産では、子宮収縮の有無と頚管長短縮(子宮の入り口の長さが短い)で診断されます。自覚症状の有無にかかわらず日本では、切迫早産の治療は入院で安静、そして子宮収縮抑制剤の投与がスタンダード。ただ、この期間が長くなると、薬の副作用の問題がお母さん、赤ちゃん双方に生じてきます。点滴につながれ長期間ほとんど動けないので、お母さんのストレスも大きい。そこで長期入院ではなく、外来管理を安全に行うために私が試みたのが、子宮頚管ペッサリーを挿入する治療法です」

子宮頚管ペッサリー(出典:原田産業株式会社)
子宮頚管ペッサリー(出典:原田産業株式会社)
日本ではまだ保険適用外だが…

 子宮頚管ペッサリーは、子宮頚管の周囲にフィットするように装着させ、子宮内の赤ちゃんを支えて切迫早産を予防する器具だ。子宮頚管ペッサリーは日本ではまだ一般的ではなく保険適用外だが、欧州では早産防止効果が認められており、関連の論文も複数発表されている。

「最初の患者さんは、陣痛がきて破水したら緊急で帝王切開をしなければならない方でした。入院管理をしていたのですが、小さいお子さんがいるため、どうしても帰りたいとおっしゃる。状態は落ち着いていたものの、頚管長短縮があり、帰宅か入院続行か悩ましい状況。そこで子宮頚管ペッサリーを提案。承諾を得られたので、この治療を行いました」

 結果、早産にならず、予定日通りの出産となった。佐々木医長は5例の子宮頚管ペッサリー治療を行い、7月の日本周産期・新生児医学会学術集会で発表し、注目を集めた。5例はいずれも、「頚管長短縮で切迫早産と診断」「破水がない」「明らかな感染兆候や痛みのある子宮収縮がない」場合が対象で、まずは入院管理で適応を判断し、インフォームドコンセントの上、同意を得た後に実施した。

「5例のうち、胎胞脱出(赤ちゃんを包む膜が子宮口から出ている)が見られなかった3例は、子宮頚管ペッサリーの挿入で安心感を持って外来管理が可能で、予定日通りの出産となりました。一方、胎胞脱出が見られた例では、正期産までの妊娠継続ができず、ひとりは完全破水、もうひとりは陣痛が起こり早産に至りました」

 ただ、子宮頚管ペッサリーを使用しての苦痛、違和感などはなく、有害事象もなし。

 患者への負担が少ない治療であることは確認された。

 今後さらなる症例の蓄積が必要ではあるものの、「子宮収縮を伴わない頚管長短縮で、胎胞脱出が見られない切迫早産に対しては、子宮頚管ペッサリー治療で外来管理が期待できる」と佐々木医長は話す。

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