10月から先行運用される「電子処方箋」は患者にどんなメリットがあるのか

写真はイメージ
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 8月19日、厚労省が来年1月の運用開始を目指している「電子処方箋」のモデル事業を実施する地域が発表された。山形県酒田、福島県須賀川、千葉県旭、広島県安佐の4地域で10月末から電子処方箋を先行して運用し、システムや運用面の検証を行うという。電子処方箋の導入で何が変わるのか。長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長の荒川隆之氏に聞いた。

 医療機関を受診して薬を出してもらう際には処方箋が必要で、現状は紙でやりとりされている。それをデジタルデータに変更し、オンラインで運用する仕組みが「電子処方箋」だ。

 患者を診察した医師がクラウド上の「電子処方箋管理サービス」にデータを登録すると、専用の引き換え番号が交付される。医師から引き換え番号の通知を受けた患者は、薬局へ出向いて引き換え番号を提示し、健康保険証(もしくはマイナンバーカード)による本人確認を行って、調剤された薬を受け取る。

 電子処方箋を使った薬の受け取りはこんなイメージになる。紙の場合と大きく違わないように思えるが、患者のメリットはどこにあるのか。

「電子処方箋のメリットのひとつは、それぞれの患者さんの薬剤情報がクラウド上に保管・蓄積されるところにあります。医師や薬剤師は、複数の医療機関と薬局をまたいでその患者さんが利用した全国の医療機関と薬局の過去3年分の薬剤情報を参照できるようになるため、複数の医療機関からいくつも薬が処方されているような場合でも、重複投薬や、深刻な副作用リスクがある飲み合わせなどをしっかりチェックできるのです。これまでは、過去の薬剤情報が記載されている『お薬手帳』をいくつも作ってバラバラに管理していたり、紛失してしまう患者さんも少なくありませんでした。電子処方箋はそうした場合でもきちんと確認できるため、見逃しや処方ミスを減らせることが期待できます」

 また、引っ越しなどでかかりつけの医療機関や薬局がかわっても、クラウド上で管理されている薬剤情報によって簡単にそれまでの治療を引き継げる。仮に災害に見舞われ、カルテやお薬手帳が失われた場合でも、常用している薬を医療者がすぐに把握できるメリットもあるという。

■将来的には完全オンラインで自宅に薬が届くように

「さらに、患者さんにとって利便性の向上につながっていくと考えられます。コロナ禍で普及が進んだオンライン診療やオンライン服薬指導がもっと増えてくれば、患者さんは自宅でオンライン診療を受診して電子処方箋を出してもらい、薬局のオンライン服薬指導を受けて、自宅に薬が配送されるようなサービスが実施されるようになるでしょう。薬を処方してもらうのに長い時間がかかるようなケースが減るうえ、外出が難しい高齢者などの患者さんや、医療機関や薬局が少ない地域の患者さんにとっては大きなプラスになるといえます」

 薬の処方がすべてオンラインで完結する──電子処方箋の導入は、その仕組みづくりのための第一歩といえる。

 ただ、完全なオンライン処方にはまだいくつも課題があるという。

「対面で薬を処方する際、片方の足を引きずっているなど、患者さんの“異変”を薬剤師が直接目にして気付くケースがあります。そうした場合、担当医に伝えたり、薬を見直すなどの対処が必要です。電子処方箋を皮切りにオンライン処方が進んでいくと、医師や薬剤師が目で見て判断する機会が減ってしまいます。本当は診察が必要な患者さんを見逃してしまう可能性もあるのです。また、薬の中には定期的に検査を受けながら服薬しなければならないものもありますし、体調や季節によって薬の効きが変化して見直しが求められる場合もある。どこでもオンラインのみで薬が処方されるようになると、そういったケースを見過ごしてしまうリスクも考えられます」

 電子処方箋の運用については、まだ具体的な対象や範囲がはっきりしていない状況だというが、近い将来に予想される完全オンライン処方で深刻なトラブルが起こらないよう、いまからしっかり議論していく必要がありそうだ。

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