「何か変…」が低血糖のサイン 対策が遅れれば認知機能低下のリスク

食事時間が遅れて低血糖になることも
食事時間が遅れて低血糖になることも

 糖尿病では、高血糖とともに低血糖にも注意が必要だ。糖尿病治療を専門とする「あおいクリニック」(東京都港区)の恩田美湖医師(糖尿病専門医)に話を聞いた。

「高血糖に関しては避けようと頑張るのですが、低血糖に関しては、あまり重要視しない方が少なくありません。一度起こしても、振り返らない傾向があります」

 低血糖は、血糖値が正常範囲以下にまで下がった状態を指す。一般的には血糖値が70㎎/デシリットルを下回ると、血糖値を上げようとする自律神経の反応による症状が生じる。冷や汗をかく、脈が速くなる、手や指が震える、不安な気持ちが生じる、顔色が青白くなるなどだ。

「さらに血糖値が下がると、脳の中枢神経系の症状が出始めます。頭痛、目のかすみ、集中力の低下、生あくびなどです。脳へ不可逆的な影響を与え、将来的に認知機能の低下を招く恐れがあります。もっと下がると、異常な行動やけいれん、昏睡が生じ致死的な状態に至る可能性があります」

 自律神経の症状が出始めた時点で、速やかに対策を講じることが肝心だ。最初の症状として冷や汗や脈が速くなるなどを挙げたが、実際は個人差がかなりある。

「どんな症状が出たか、というより、血糖値を確認できない状況で『何か変』だと感じたら、糖尿病の人はすぐにブドウ糖やジュース類など糖が含まれたものを補食してください。低血糖なら10分以内に症状が取れます。『何か変』は、もしかしたら低血糖が原因ではないかもしれない。また、補食で急に血糖が上がり体調が悪くなる人もいる。しかしいずれも、低血糖が進むより問題が小さい」

 たとえば低血糖で倒れて骨折を起こし入院となると、高齢者であれば認知症リスクが上がる。重篤な低血糖は命に関わるし、車の運転中に低血糖で昏睡状態になれば交通事故を引き起こす。

「低血糖は起こさないこと、さらに繰り返さないことも重要です。低血糖を繰り返しているうち、軽い低血糖では自覚症状を感じにくくなるからです。これを無自覚性低血糖といいます」

■繰り返すうちに自覚症状が出にくくなる

 低血糖対策として、まずは自身が日常的に低血糖を起こしていないかどうか、確認が必要だ。

「ある患者さんで、『昼食前に頭痛がする。昼食を食べたら治る』とおっしゃる方がいました。24時間持続して血糖値を測定する持続血糖測定器を装着してもらったところ、昼食前に軽い低血糖を起こしていました。聞くと、その方は午前中に畑仕事をしており、季節的にいつもより仕事量が多く、それで低血糖を起こしていたのです。ご本人は熱中症だと思っていたようでした」

「あの症状は実は低血糖だった」と自覚できれば、食事時間や食事量の調整で対応できる。「何か変だと感じたら補食を」と前述したが、「何か変」というサインを見逃している人もいるので、ちょっとでも体調不良があれば、糖尿病でかかっている医師に相談する。

「もうひとつの手段としては、持続血糖測定器の装着です。血糖の変動が一目瞭然で、そのときの行動を振り返ることで、低血糖を起こしやすい行動パターンをチェックできます。行動変容のきっかけにもなります」

 持続血糖測定器は3種類あり、1型糖尿病か2型糖尿病か、2型糖尿病ならどんな治療か、によって、保険適用で使える機種が異なる。機種によっては、低血糖を起こすとアラームが鳴るものもある。

 低血糖は、「食事の量が少ない・食事時間が遅れた」「運動量が多すぎる・空腹時に激しい運動を行った」「糖尿病の薬を変えた」「インスリン注射量が不適切だった」といったときに起こりやすい。

 とはいえ、「仕事に熱中していたら、いつの間にか食事時間が遅くなっていた!」「思っている以上に運動量が多かった!」ということは往々にしてあるだろう。

「糖尿病の治療中の人ならだれでも低血糖を起こすリスクがあるのです」

 注意しすぎるに越したことはない。

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