VRで学ぶストレスマネジメント 検証試験で抗うつ効果証明

コロナ禍で心が疲れている人にも
コロナ禍で心が疲れている人にも(C)日刊ゲンダイ

 ストレスマネジメントができるようになりたい。心理カウンセリングを受けられる場が近くにない。すでに受けているが行き詰まりを感じている……。そんな人は、東京歯科大学准教授の宗未来医師(精神科医)らがメタバースと呼ばれる仮想現実(VR)空間で行う「おうちdeストレスマネジメント」を体験してみてはどうだろう。

「正しい“こころ”の使い方を学ぶ」をうたう「おうちdeストレスマネジメント」は、宗医師らが開発したメンタル対策への新たな試みだ。

「自分の分身を表すキャラクター『アバター』となり、スマホやPCからメタバース(VR空間)でストレスマネジメントに役立つプログラムに参加します」(宗医師=以下同)

 宗医師は英ロンドン大学で認知行動療法、英バーミンガム大学で家族療法、米ピッツバーグ大学で対人関係療法を学び、日本うつ病学会診療ガイドライン心理部門の執筆責任者も担うエビデンス心理療法の専門家である。

 うつ病をはじめ、こころの治療に認知行動療法などの心理的支援が重要であることは明らかだが、日本の精神医療は依然、薬中心だ。心理職の国家資格「公認心理師」制度が立ち上がったものの、公的心理的支援の供給体制の整備は不十分。

「心理的支援を必要とする人が、エビデンスに基づいた心理サポートが気軽に受けられる状況には程遠いのが実情です。その実態を目の当たりにする中で、多くの利用者が手軽に参加可能なメタバースを用いた心理教育こそが、日本のメンタルリテラシー底上げの切り札になりうると着想するに至りました」

 現状の心理カウンセリングの質は玉石混交で、優秀な心理セラピストほど特殊な研究対象でないとカウンセリングを引き受けず、私費だと高額になりがち。

 さらに日中働いている人は参加できる時間に制限があり、地方ほど高いスキルを持つ心理セラピストの数が少なく、受けたくても受けられる場所が非常に限定的だ。

■アバターでの参加なので人の目が気にならない

「効率的なのはグループセラピーですが、見知らぬ人と一緒に、ということに抵抗を示す人は少なくありません。他人にどう見られるかが気になる社交不安症や摂食障害の患者などは、他の参加者の視線が気になり足が重くなりがちです」

 しかし、メタバースならどこにいても参加できる。アバターなので、他人の目を気にせず話に集中できる。その一方で、「人とつながっている」という安心感や連帯感が生まれる。調子が悪かったり、興味がなければ途中で気兼ねなく抜けられ、休むのにも抵抗がない。

「おうちdeストレスマネジメント」で用いるプログラムは、宗医師がかつて在職した慶応大学病院で患者に提供していたコンテンツを、一般向けに改変したもの。

 その後、2021年にはうつ状態で苦しむ全国の会社員約100人を対象に実施。6週にわたる厳密な検証試験(無作為化比較試験)を通じて抗うつ効果が証明され、その結果は第117回日本精神神経学会(2021年)で学会報告もなされている。

「こういったメタバース空間を用いての大規模なグループ心理セラピーでの効果検証の成功は、国内外でもまだ例がないでしょう」

 プログラムは全6回。毎週木曜日、19時45分から40分間行われる。宗医師がバーチャルキャラクターとして解説を30分行い、その後、質疑応答10分間という、1回完結型。

 視覚化したコンテンツや独自開発の治療アプリ実践を通じて、誰もが理解しやすい内容となっている。宗医師は、「本プログラムの強みはメタバースといった新しい技術面以上に、あくまでも経験豊かな現役精神科医の指導で、本質的な心理的理解を深められることです」と強調する。なお、参加費は当面無料。

参加申し込み先はhttps://v-sensei.com/から

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