寝たきりになりたくない! 押さえておきたい5つの「M」

自分らしく最期を迎えたい(写真はイメージ)
自分らしく最期を迎えたい(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 寝たきりにならず、ピンピンコロリで最期を迎えたいと思っている人は多いだろう。そのために押さえておくべきことは何か?

「健康寿命」は、「平均寿命」から寝たきりや介護の期間を除いた期間のこと。厚労省のデータによると、2019年の平均寿命は男性81.4歳、女性87.5歳。健康寿命は男性72.7歳、女性75.4歳。平均寿命と健康寿命の差は年々縮まりつつあるが、それでも男性8.7歳、女性12.1歳の開きがある。

 健康寿命を延ばす鍵になるのが「5つのM」だ。「最高の老後 『死ぬまで元気』を実現する5つのM」(講談社)の著者で、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学で老年医学の専門医として日々治療を行う山田悠史医師によれば、5つのMとは、次になる。

●Mobility(体)→フレイルやサルコペニアを防ぎ、最期まで動ける体をつくる
●Mind(心)→認知症やうつ病にならない・進ませないよう、心の健康を保つ
●Medications(薬)→飲むべき薬、やめられる薬を正しく判断し、薬と上手に付き合っていく
●Multicomplexity(予防)→未然に防げる病気は、徹底して予防する
●Matters Most to Me(生きがい)→人生にとって何が最も大切かを考える

 山田医師が言う。

「小児には小児ならではの問題や特有の病気があり、それ相応の専門的知識が必要です。そのために小児科があるわけですが、高齢者においても同じことが言えます。高齢者になると高齢者ならではの問題が生じ、非高齢者に行われるのと同様の医療が必ずしも適しているとは言えないケースが多々あるのです。『5つのM』は高齢者を診療する際の基本で、2017年にカナダおよび米国の老年医学会で初めて提唱されました。老年医学が日本に先駆けて浸透している米国では、『5つのM』を一つ一つ確認しながら治療方針を決めていきます」

■亡くなる前日まで仕事を続けた

 山田医師の患者でこんなケースがあった。

 その人はがんで、体力があるため強い抗がん剤で治療をすればがん細胞が一度は消える「寛解」を目指せる可能性があるが、根治は難しい状況だった。

「提案できる治療の選択肢は、強い抗がん剤の投与、比較的軽い抗がん剤の投与、抗がん剤を投与しない、の3つでした」

 強い抗がん剤は寛解は目指せるものの、副作用のリスクが高く入院が望ましい。

 比較的軽い抗がん剤は副作用が少なく通院で受けられるが、効果がマイルドで残された時間が短くなるかもしれない。抗がん剤治療をしないという選択肢にすれば、生きられる時間はさらに短くなるかもしれない一方で、通院の頻度をさらに減らせ、抗がん剤の副作用を心配する必要もなくなる。

「『5つのM』のうち『生きがい』において、この患者さんは『仕事』ときっぱり答えました。最期の瞬間まで仕事をやり通したい、ただし受けられる治療があるなら治療も受けたい、と。奥さまもそれに同意されていました。私は抗がん剤の詳細なデータを示し、患者さんに適しているのは比較的軽い抗がん剤による治療ではないかと伝えました。最終的に患者さんが選択したのは、私が推奨した比較的軽い抗がん剤の治療でした」

 抗がん剤の日は午前中に仕事をし、午後に治療。職場でも病状を説明し、最期まで働く意思を示した。治療中に「ダンスを妻としたい」と、がん発症前は時間が取れずにできなくなっていたダンスを再開。当初、余命は数カ月と予想されていたが、それを超えて人生を楽しみ、亡くなる前日まで仕事を続けていた。

「5つのM」は、医療者側だけが押さえておくべきことではない。治療を受ける側も、1つでも意識することを増やす。それが健康寿命の延長になり、また自分自身も家族も後悔しない最期を迎えることにつながる。

「中でも特に考えてほしいと思うのは、生きがいの『M』。どういうふうに生きたいか、どんな生き方は避けたいか」

 5つの「M」で、後悔しない人生を。

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