最近、低ナトリウム血症と頭部外傷を患う90歳になる方が私たちの診療所で在宅医療を開始されました。お一人暮らしの女性です。
低ナトリウム血症とは、なんらかの原因で体内の水分量とナトリウム量のバランスが崩れ、血液中のナトリウム濃度が低くなる病気です。
3つの場合が考えられていて、まずは、下痢や嘔吐、多量に汗をかいたときなどに水分を補給しようと水を多量に摂取したときに起こるもの。
次に、心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、腎不全などの疾患からナトリウムに比較して体内の水分量が過剰になることで生じるもの。
そして、ホルモン異常などで体液量はほぼ正常なのにみられる低ナトリウム血症。高齢者では、水分とナトリウムの調整機能が低下して起こすケースもよくあります。
低ナトリウム血症は初期ではほとんどが無症状ですが、ナトリウム濃度が低下するにつれ、軽い疲労感、反応の鈍さ、錯乱、頭痛や嘔吐、食欲不振が生じ、やがては筋肉のひきつりやけいれんの発作が起きるようになります。その女性も、低ナトリウム血症でふらつき、転倒。頭部を打撲し、病院へ救急搬送され、入院となりました。それによって体を動かす時間が減り、筋力が著しく低下。10メートルを超える歩行は困難となりました。ADL(日常生活動作)の著しい退化も招いていました。ただ、お気持ちは大変元気。
近くに息子さんは住んでいますが、もともと独居で自立した生活をされていた方で、退院し、ご自宅での生活を強く希望。しかし、元の生活に戻るには、病院からはさらに施設入所を強く勧められたといいます。息子さんたちが何か手がないかを探し、リハビリテーションを目的とした他の病院への転院を経て、希望通り、在宅医療を開始となったのでした。
私たちがご自宅を初めて訪れたとき、そこには驚きの光景が……。部屋は足の踏み場もないほどの、いわゆるゴミ屋敷だったのです。
「お荷物がたくさんですね」(私)
「私が週に1~2回来て掃除してはいるんですが」(息子さん)
「ちょっとおウチが過ごしにくそうですからね」(私)
「ものがいっぱいで。私も片付けたいんだけど手付かずで」(本人)
「息子さんとかヘルパーさんに手伝ってもらってちょっとずつ変えていきましょう」(私)
聞けばご本人は耳も聞こえにくくなっているご様子で、息子さんは耳あかが詰まってるんじゃないかと心配されていました。次回処置できるようにピンセットの用意をお約束すると、安心されたご様子。
在宅医療を受ける方には、さまざまな方がいます。お一人暮らしの方、療養環境の整理がまず必要な方もかなりいます。私たちは患者さんやご家族に寄り添い、改善のお手伝いを時にしながら、患者さんのQOLを上げることに尽力しているのです。