上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

家電製品を活用して心臓に良い「環境」と「食生活」をつくる

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 前回、心臓を守るために使いたい電化製品として「睡眠補助装置」と「ミストサウナ」を取り上げました。ほかにも効果的だと考えられる製品があるので紹介します。

 まずは、室内の適切な湿度を保つ「加湿器」です。とくに冬は空気が乾燥するうえ、エアコンやストーブなどの暖房機器の使用によってさらに乾燥しやすくなるため、ぜひとも活用したい電化製品です。

 これまでも何度かお話ししていますが、心臓は脱水にめっぽう弱い臓器です。脱水の傾向が強くなると血液の量が減って、粘度も上がります。少なく流れにくい血液を全身に送らなければならない心臓は心拍数を増やすので、それだけ負担が増大するのです。

 また、血栓もできやすくなって、心筋梗塞や心不全といった心臓病を起こしやすくなります。心臓病や高血圧、糖尿病を抱えている患者さんは心房細動を発症しやすくなりますし、高齢の大動脈弁狭窄症の患者さんでは脱水をきっかけに症状が悪化して、意識を失ってしまうケースもあります。心臓にとって大敵である脱水を防ぐために、加湿器が効果的なのです。

 心臓の健康に最適な湿度については特定の数字が明らかになっているわけではありませんが、おおむね60%が目安と考えていいでしょう。一般的に室内での快適な湿度は40~60%といわれ、湿度が50%以下になると肌の角質層の水分が急激に蒸発して乾燥しやすくなることがわかっています。また、湿度は体感温度とも深く関係しているので、外気温が低い冬は室温を22~24度くらいに維持することも意識しましょう。

 ちなみに、湿度が60%を超えるとカビやダニが増えていき、40%を下回るとウイルスが活発になって感染しやすくなるといわれています。心臓だけでなく、健康維持のためにも湿度の管理は大切なのです。

 加湿器にはいくつも種類がありますが、自動運転機能が付いたタイプがおすすめです。内蔵されたセンサーが周囲の湿度を感知し、設定した湿度に合わせて自動で運転してくれます。

■ビタミンや補酵素を手軽に摂取

 心臓病や動脈硬化の予防に役立つと考えられるのが「ミキサー」です。野菜や果物を投入してスイッチを入れるだけで、ビタミン、ミネラル、補酵素などの栄養素を含んだスムージーをつくることができます。

 ビタミンが心臓の健康に大きく関係していることは広く知られています。ビタミンCやビタミンEには、活性酸素の働きを抑える抗酸化作用があります。活性酸素は加齢、ストレス、食習慣などさまざまな要因で増えるといわれ、細胞や組織を傷つけるので動脈硬化を起こしやすくなります。ビタミンDは心血管の酸化ストレスを軽減させ、血流を促進したり、傷ついた血管内皮細胞を修復して血管を守る働きがあると報告されています。

 ビタミンCはキウイフルーツ、レモン、イチゴなどの果物や、パプリカ、ブロッコリー、カボチャなどの野菜に多く含まれています。ビタミンEはアーモンドなどのナッツ類やホウレンソウ、ビタミンDは魚類やキノコ類だけでなく乳製品や卵黄に含まれています。

 また、国立がん研究センターの調査によると、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12という3つの補酵素を多く摂取している人は、心筋梗塞のリスクが低下すると報告しています。3つの補酵素すべての摂取量が高い人に比べて、すべてが低い人は心筋梗塞のリスクが約2倍になっていました。

 葉酸は、ブロッコリーやホウレンソウなどの野菜や、イチゴやバナナなどの果物に豊富です。ビタミンB12は魚介類、肉類、海藻類に多く、野菜や果実などの植物性の食品には含まれていませんが、ビタミンB6は、赤身の魚や脂が少ない肉類だけでなく、パプリカ、バナナ、サツマイモといった植物性の食品にも比較的多く含まれています。

 これらのビタミンや補酵素が多い野菜、果物をミキサーにかけてスムージーをつくり、日々の食事と一緒に飲むような習慣を心がければ、心臓をはじめとした健康維持を期待できます。

 心臓に良い環境と食生活を構築する可能性が高い電化製品を活用することで、体調が変化しやすい季節の変わり目も安定した健康状態で過ごすことができるでしょう。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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