感染症別 正しいクスリの使い方

【薬剤熱】抗菌薬が原因で起こるケースが約3分の1を占める

写真はイメージ
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 前回、原因不明の発熱が起こる感染性心内膜炎についてお話ししました。ただ薬剤師としては、不明熱というとまず頭に思い浮かぶのが「薬剤熱」です。

 薬剤熱はその名の通り、薬剤が原因で引き起こされる発熱のことです。特異的な所見がないため診断が難しく、原因と思われる薬剤の中止により解熱した場合に薬剤熱と診断されます。ほぼすべての薬剤で薬剤熱が報告されていますが、薬剤熱を引き起こす最も頻度の高い薬剤は抗菌薬です。薬剤熱の約3分の1を占めるともいわれています。

 薬剤熱を引き起こす頻度の高い薬剤のうち抗菌薬ではないもの、たとえばウイルス性肝炎などの治療に使われるインターフェロンの場合は解熱剤を併用して継続することも多く、抗けいれん薬や高尿酸血症治療薬のアロプリノールなどでは別の薬剤に変更します。

 一方、抗菌薬による薬剤熱は非常に困ってしまいます。なぜなら、抗菌薬を投与しているということは感染症である可能性が非常に高く、その熱が薬剤熱なのか、それとも感染症による発熱なのかを見分けることが難しいからです。そして、もしも感染症による発熱ならば、抗菌薬を中止すると感染症が悪化することになってしまうかもしれません。

 一般的に、薬剤熱は原因となった薬剤の内服・点滴を開始して1~2週間でみられます。ただ、24時間以内で発熱するケースもありますし、数カ月の経過の後に発熱する場合もあります。そのため、「薬剤が長期間投与されている」という状況だけで、薬剤熱を否定することはできません。

 薬剤熱のほかの特徴としては、「発熱しているが全身状態は良好である」「発熱の割には比較的徐脈である」ことが多いとの報告があります。また、薬剤中止から48~72時間で軽快するケースが多いとされています。

 感染症が抗菌薬によって改善し、解熱しつつあるところで再び発熱する場合があります。この時、患者さんの全身状態が良く、薬剤熱の可能性を強く疑う場合には、抗菌薬の中止を提案してもいいといえます。ただ、ほとんどの場合はその感染症に対して効果が期待できる別の抗菌薬への変更を提案します。再び発熱した原因が感染症の増悪だった場合が怖いからです。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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