ニンニクは「臭い」がなければ高い健康効果が受け取れない理由…専門家に聞いた

ニンニク独特の臭いが重要
ニンニク独特の臭いが重要

 近年、「スーパーフード」として注目されているのがニンニクだ。健康維持に有効な成分が多く含まれ、さまざまな病気の予防に役立つと報告されている。ただ、その恩恵にあずかるためには「臭い」が重要だという。ファンケル総合研究所機能性食品研究所所長の寺本祐之氏に詳しく聞いた。

 ニンニクといえば、あの強烈な臭いを真っ先に思い浮かべる人は多いだろう。土の中で育つニンニクは土壌から硫酸塩を吸収し、GSAC(γ-グルタミル-S-アリルシステイン)という成分にして細胞内にため込んでいる。さらにGSACの一部はアリインという成分に変換され、昆虫や動物などの外敵に少しでも傷つけられると、細胞内に存在する酵素の働きによって、外敵が嫌う刺激成分のアリシンが生成される。このアリシンがいわゆるニンニクの強烈な刺激臭の“正体”だ。

「つまりニンニクは傷つけなければアリシンが生成されず、臭わないということです。生のニンニクを調理の過程で切り刻んだり、すり潰したりすることで、アリイナーゼという酵素と混ざり合い、初めてニンニク臭が発生するのです。アリシンは反応しやすくさまざまな成分に変化します。たとえば加熱したり油を使って調理すると、DADS(ジアリルジスルフィド)やDATS(ジアリルトリスルフィド)などのスルフィドという臭い成分に変化します。世界中で研究報告されているニンニクのさまざまな健康効果は、このアリシンやスルフィドなど臭い成分によるものが多いのです。ですから、ニンニクを健康維持に役立てるなら、『臭い』が重要なのです」

■心臓病やがん予防効果の研究報告も

 ニンニクの臭い成分であるアリシンの働きのうち、注目されているのが心臓血管疾患を予防する機能の研究だ。

「アリシンなどの硫黄化合物には、血行を促進して血液をサラサラに保ち、血液を固まりにくくする作用があります。動脈硬化や血栓がつくられるのを防ぐ可能性があるのです。また、血管の拡張にも関わっているため、血圧を下げる効果があることも報告されています。ほかにも、悪玉(LDL)コレステロールの酸化を抑制し、動脈硬化の一因になる動脈の内側に蓄積するプラークを減らす研究もあります。動脈の石灰化促進の抑制や血管内皮機能の改善も認められていて、これらの作用が相まって、心筋梗塞のリスク軽減につながると考えられています」

 アリシンが変化したDADSやDATSなどのスルフィドには、抗がん作用があることが知られている。

 アメリカ国立がん研究所では、がん予防に有効とされる野菜類の効果研究が行われ、「デザイナーフーズピラミッド」というランクが発表されている。研究された40種類の野菜の中で、ニンニクは唯一の“頂点”に位置づけられている。

「DADSやDATSといったスルフィドには、がん細胞の増殖を抑えてがん細胞を消滅させる効果があることが報告されています。スルフィドの働きの特徴は、がん細胞を自ら滅びていくアポトーシスという現象を起こさせているという点にあります」

 世界の地域ごとの、がん発生状況と食品摂取の相関関係を調べた海外の研究では、ニンニクの摂取量が多い地域や人では、乳がん、肝臓がん、前立腺がん、胃がん、咽喉がん、結腸がんなどの発症リスクが低いことが認められているものもある。

 冒頭でも触れたように、こうしたニンニクの効果を享受するには「臭い」がするよう調理することが肝心だ。

「ニンニクを丸ごと、いくつも食べるよりも、すりおろしてから少量だけ摂取するほうがより高い健康効果を期待できます。すりおろしたニンニクは刺激が強いため、大量に摂取すると胃を痛めたり、腸の免疫機能にダメージを与える可能性があるので取りすぎは禁物です。また、スルフィドは油に溶け出しやすいので、イタリアではニンニクを使うパスタ料理のペペロンチーノを調理する際は、スライスしたニンニクを焦がさないようにオリーブオイルでゆっくりと加熱します。そうすることで、スルフィドを効率的に摂取できるのです。スライスしたニンニクを油で揚げたニンニクチップでも有効成分は摂取できます」

 ニンニクは臭くなければ“真価”を発揮できないのだ。

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