「紫色尿バッグ症候群」という名称を耳にしたことがあるでしょうか。文字通り、採尿バッグ(蓄尿バッグ)内の尿が紫色に染まる現象です。私も20年ほど前、初めて見た時は「いったい何の病気なんだ?」と、かなりびっくりしました。紫色尿バッグ症候群=PUBS(purple urine bag syndrome)のほか、紫尿バッグ症候群、紫バッグ症候群などともいわれています。
一般的に尿道カテーテルを長期留置している患者に見られ、慢性便秘症と尿路感染を合併したときに起こるケースが多いとされます。便中のトリプトファン(必須アミノ酸の一種)が、便秘で増殖した腸内細菌によって分解されてインドールになり、そのインドールは肝臓を通りインジカンとなって尿中に排泄(はいせつ)されます。インジカンは尿中のさまざまな細菌が産生するスルファターゼにより、インジゴブルー(青色色素)とインジルビン(赤色色素)が生じます。だから、紫色になるのです。この2つの物質は水には溶けないのですが、プラスチックやポリマーに溶け込む性質を持っているようです。また、プラスチックなどに付着しやすいので、尿バッグにも色がついたままになります。
バッグ内の尿を培養することで、原因菌が判明するケースもあります。プロビデンシア属(Providencia stuartii)など、いくつもの腸内細菌が原因菌として知られ、そうした細菌がカテーテルに定着することで起こる可能性があるのです。
ただ、発熱など感染症状が見られない場合(無症候性細菌尿)は、抗菌薬による治療は必要ないと考えられています。抗菌薬の感染予防効果は一時的なものにすぎず、長期の使用は耐性菌感染のリスクを高めます。カテーテル留置に伴う無症候性細菌尿に対し、抗菌薬などの投与は原則不要です。治療よりも、その背景になりうる便通のコントロールや、寝たきり、カテーテル長期留置、細菌感染などに対する予防医学の重要性が指摘されています。
このほか薬剤が原因で尿が着色する場合もあり、抗菌薬ではセフォゾプラン(赤色~濃青色尿)や、ミノサイクリン(黄褐~茶褐色、緑、青色尿)などが知られています。尿への着色については次回もう少し詳しくお話しします。
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