上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓病の改善や予防に効果があるサプリメントはほとんどない

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

「心臓に良いサプリメントはありますか?」

 患者さんからこんな質問をされることがあります。結論からお話しすると、低下した心臓の機能そのものを回復させたり、ダメになった心筋を蘇らせるようなサプリメントはありません。治療はもちろん、そうした点からの心臓病の予防に効果的なサプリメントは残念ながら存在しないのです。

 ビタミンBやビタミンDなどを含むマルチビタミン、マグネシウムやリンなどのミネラル、コエンザイムQ10といった、いくつものサプリメントが「心臓病の予防に効果的なのではないか」と期待され、世界各国でさまざまな研究が行われてきました。しかし、いずれも確かな効果があるというエビデンス(科学的根拠)は得られていないのが現状です。

 そうしたサプリメントの中でも、青魚に多く含まれるEPAやDHAといったオメガ3系脂肪酸の魚介由来サプリメントについては数多くの研究が実施されています。

 オメガ3系脂肪酸は、「血管の収縮や血小板凝集を引き起こすトロンボキサンの合成を阻害して動脈硬化を抑制する」「オメガ3系脂肪酸を摂取すると体内で生成される脂肪酸代謝物が心臓の炎症や線維化を抑制して心臓を保護する」といった作用が知られているため、心臓病の改善や予防効果が期待されているのです。

 ただ、これも研究によって結果はまちまちで、決定的な結論は出ていません。おおむね「オメガ3系脂肪酸の魚油サプリメントは、心臓発作や心血管疾患イベントのリスクを低下させる可能性がある」という程度に考えておけばいいという印象です。

 ちなみに、米国心臓学会は「心臓病のリスクが高く、食事で魚などを十分に摂取できない場合」は、オメガ3系脂肪酸のサプリメントを利用することを勧めています。一方で、オメガ3系脂肪酸サプリメントの過剰摂取は心房細動の発症リスクを高める可能性があるという研究報告もあるので、取りすぎには注意が必要でしょう。

 このように、心臓病の改善や予防に直接的な効果があるサプリメントはないのが現状です。

■生活習慣を整えるものは予防につながる

 ただ、間接的に心臓病の予防効果が期待できるサプリメントはいくつか思い当たります。たとえば、睡眠の改善効果が認められているもの、過食を抑えて肥満予防が期待できるもの、排泄をスムーズにする効果があるものなどがそれに該当します。

 健康な人が心臓病にならないように予防するうえでとても重要なポイントは、自律神経のバランスを崩すような生活習慣を改善することです。活動時や緊張状態で活発になる交感神経が優位になる時間が長期に続く状態になると、心拍数が増えたり血圧が上昇するため、心臓の負担が増すうえに動脈硬化も促進され、心臓病につながりやすくなるのです。

 自律神経のバランスを整えることに大きく影響する生活習慣は、「睡眠」「食事」「排泄」です。心臓病の予防はもちろん、健康を維持するためには、この3つを適正にコントロールするための努力を惜しんではいけません。それを補助するための手段として、定期的にサプリメントを摂取することは決して悪いことではないのです。

 私も、生活リズムをきちんと整えることを目的にサプリメントを使っています。腸内環境をコントロールする効果があるものなどを中心に毎朝5種類ほど飲んでいます。個人的な考えですが、サプリメントは同じ種類でも高価なものを選んでいます。意図的な出費により「しっかり飲まなければ」という意識が強く働き、適切なサプリメント摂取の習慣が確立できるからです。

 また、サプリメントを購入する際は、最初に限っては手軽にネット通販で買うのではなく、ドラッグストアに出向く方が良いと思います。薬剤師からサプリメントの効果などについてしっかり説明を聞いたうえで、なるべく自分に合ったものを選んで購入できるからです。それから実際にそのサプリメントを飲んでみて「合っているな」と感じたら、次回からはネット通販で購入すればいいのです。

 もうひとつ注意する点は、普段から服用している薬との飲み合わせで相互作用が出るケースがあることです。ほとんどの場合、大きな問題はないのですが、中には服用している薬の効果が増強されて、副作用が出やすくなってしまうものもあります。たとえば、コレステロール降下薬のスタチンを飲んでいる人がオメガ3系脂肪酸のサプリメントを飲んで、関節痛が出たり足がつりやすくなるケースも見られます。

 普段からいくつも薬を服用している人は、サプリメントを飲む際は担当医に相談してください。そして、何か異変があったら医師に相談することが最善ですが、すぐに受診できない場合は処方薬とサプリメントの両方を2日間中止して、もともと服用していた処方薬から再開して様子を見てください。

 その後、2日間空けてサプリメントを再開し、異変が出たらそのサプリメントは継続しない方がいいと考えます。

 改善があってもなくても必ず担当医に報告しておくことは忘れないでください。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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