業界初の国家資格「眼鏡作製技能士」は眼鏡作りをどう変える? 6千人余りの有資格者誕生

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 眼鏡作りに関する初の国家認定資格である眼鏡作製技能士試験の第1期合格者6000人余りが16日、発表された。眼鏡作製技能士資格は国家資格である技能検定制度のひとつ。指定試験機関である公益社団法人「日本眼鏡技術者協会」が実施する学科並びに実技試験にパスした人が眼鏡作製技能士を名乗ることになる。合格者は眼鏡作りに関して最適な提案、販売、ケアができる能力があるとされる。今後、眼鏡作りはどう変わるのか? 眼鏡業界に詳しい時計工芸新聞社の榎本卓生社長に聞いた。

「眼鏡作製技能士は有資格者はもちろん、彼らが所属する眼鏡店が眼鏡作りにおいて一定以上のレベルを担保する店舗である証しとなります。当然、お客さまは眼鏡を作る際に有資格者のいるお店を選択するはずで、今後の眼鏡店にとってなくてはならない存在になるでしょう」

 しかし、これまでも眼鏡店によっては「認定眼鏡士」と呼ばれる眼鏡技術者がいた。どう違うのか?

「認定眼鏡士も優れた資格でしたが、残念ながら公益法人の任意の資格だったが故に全国的な認知度は高くなかった。しかし、国家資格である眼鏡作製技能士は、広く認知され、その重みが年々増していくことになるでしょう。やがて眼鏡店で働くには眼鏡作製技能士資格の取得が事実上必要とされる時代になると期待されています」

 そんな眼鏡作製技能士には2種類ある。1級は眼鏡市場のトレンドを把握した眼鏡作製の知識や技術だけでなく、コンプライアンスや眼科医との連携に関する十分な知識を持ち、他の眼鏡作製技能士の指導や育成も可能な能力を持つ。2級は眼鏡作製に必要な概略の知識・技能を身につけていて、顧客のニーズをくみ取った適切な眼鏡の提案や作製ができる能力を持つという。

「現在は認定眼鏡士資格の保有者への優遇措置として、特例講習会が開かれ、学科・実技の免除が実施されています。しかし、本来は厳格な受験資格のなか難しい試験をパスしなければ合格できない試験制度になっています」

■いま、なぜ、眼鏡作製技能士なのか?

 実際、1級の学科試験の受験資格は、眼鏡作製に関する業務に5年以上の実務経験があるか、2級の技能試験に合格したあと2年以上の実務経験がある人、もしくは3年制以上の全日制眼鏡専門学校を卒業または卒業見込みの人などとされている。2級の学科試験の受験資格は眼鏡作製に関する業務に2年以上の実務経験があるか、2年制以上の通信制眼鏡専門学校を修了した人となっている。ただし、漫然と実務経験を積んだだけでは眼鏡作製技能士の試験には合格できない。今回の1級の学科試験の合格率は約14%、2級は約63%だったという。それにしてもいま、なぜ、眼鏡作製技能士なのか?

「眼鏡は医療補助具であり、日本では2人に1人が眼鏡をかけていながら、ごく少数とはいえ、眼鏡が原因で体調を壊すなどトラブルが報告されているからです。消費者庁が独自に精査した『事故情報データバンク』(2012年~22年8月)によると、登録された眼鏡店で作製した眼鏡により体調を壊したと訴えがあった件数は238件。そのうち10歳以下は12件でした。このうち『レンズの度数が合っていない』は126件、『フレームの調整不足』は51件。不調の主な症状は『頭痛』が82件と最も多く、『吐き気・めまい・気分不良など』が78件、『疲れ目、目の痛みなどの目の不調』が70件、ほかに『視力低下』が9件もあったのです」

 つまりは一部の眼鏡作りにおいて知識、情報、技術不足があったということだ。

 最近は老眼対策用眼鏡に視線を動かすだけで見え方が変わる累進レンズが普及し、フレームの正確な調整なくして精巧な累進レンズの機能が発揮できなくなっている。そのことも眼鏡作製技能士を後押しする原因になっているという。

「世界的に近視になる人が爆発的に増え、将来、中途失明者が増大するとの見方があり、正しい眼鏡作りはますます重要になっています。眼鏡作製技能士制度誕生にあたり、眼鏡業界は新たに日本メガネ協会を設立。全国の眼科医と連携して、国民の目の健康の向上に尽力する体制を整えていて、厚労省もこれをバックアップしています。今後は眼鏡作りは眼鏡作製技能士が中心になることが期待されています」

 人間は情報の8割を目から得るという。今後、眼鏡を作る際はまず眼鏡作製技能士に相談してから、ということになりそうだ。

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