高齢者の正しいクスリとの付き合い方

抗ヒスタミン薬の副作用「眠気」と「口渇感」が“食べる”の障害に

写真はイメージ(C)PIXTA
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 高齢になっても元気に“食べる”うえで、個人的に注意が必要だと考えているクスリは「抗ヒスタミン薬」です。以前にも一度少し触れたことがありますが、さらに詳しくお話しします。

 抗ヒスタミン薬というとピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆるアレルギー症状に用いられるクスリです。鼻水を止めたり、鼻づまりを改善したり、かゆみを止めたりすることを目的としています。

 これらの症状は風邪をひいたときに表れる症状でもあるため、一部の抗ヒスタミン薬の成分は市販されている風邪薬にも含まれている場合が多いです。市販薬にも入っていると聞くと「安全性が高い成分」だと思われる方も多いでしょう。しかし、当然、副作用があり、その代表的なものが中枢抑制作用による「眠気」と唾液分泌抑制作用による「口渇感(口の中が渇く)」です。

 これまでクスリと“食べる”の関係について取り上げてきた中で、「眠気」は摂食嚥下(えんげ)5期のうち食道期を除くすべての時期に悪影響を及ぼすとお話ししました。抗ヒスタミン薬による眠気は、成分がどの程度脳に到達するかによって決まり、中にはその程度が弱く眠気を起こしにくいとされているものもあります。ただ、それでもまったく眠気を起こさないわけではないので、特に高齢者の方がこういった抗ヒスタミン薬を使う際は注意が必要です。

 また前回は「唾液」の役割についてお伝えしました。唾液分泌抑制による口渇感も中枢抑制作用同様、摂食嚥下5期のうち食道期を除くすべての時期に悪影響を及ぼします。“食べる”における唾液の重要性を知ると、唾液が出なくなることがどれほど問題になるか、ご理解いただけたと思います。

 抗ヒスタミン薬による唾液分泌抑制は、クスリの成分が併せて持っている抗コリン作用によるものです。また、抗コリン作用は唾液分泌抑制だけでなく、便秘の原因にもなります。便秘でお腹が張ると、やはり“食べる”に悪影響を及ぼします。抗ヒスタミン薬以外にも抗コリン作用を示すクスリがあるので、複数種類のクスリが処方されている場合はより注意が必要となります。

 高齢者は皮膚の水分量が低下するなどしてかゆみを訴えるケースが多く、抗ヒスタミン薬が処方されている方もたくさんいらっしゃいます。もちろん本当に必要な場合もありますが、漫然とだらだら服用し続けているなんてことはありませんか? そういえば、口の中がカラカラに渇いていることが多い……。最近むせることが多くなった……なんて方は、まずクスリの内容を見直してみてもいいかもしれません。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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