Dr.中川 がんサバイバーの知恵

大腸がんの罹患率や死亡率 生活習慣の影響は遺伝的影響を上回るのか?

2021年、大腸がんで手術を受けたことを報じられたペレ(C)ロイター
2021年、大腸がんで手術を受けたことを報じられたペレ(C)ロイター

 今回こそはベスト8へ。サッカーW杯で日本代表はドイツとスペインを破っただけに、期待が大きかったですが、クロアチアにPK負け。決勝トーナメント1勝して、8強入りの夢は持ち越しです。

 それで思い出したことがあります。1970年のW杯で母国ブラジルを優勝に導いたペレです。当時の私は暁星小のサッカー部でした。サッカーの神様は、58年と62年の大会にも優勝を飾っています。そのすごさに強い印象を受けたと同時にサッカーの面白さも知り、暁星高校までサッカーを続けたのです。

 今回は、そのペレについて。ペレは昨年、大腸がんで手術を受けた後、抗がん剤治療を追加したと報じられています。その後、抗がん剤が効かなくなり、緩和ケアに移行したとする報道を、家族などが否定。入院しているブラジルの病院は、「(薬剤の)見直し」としていて、容体は安定しているようです。

 ただし、気になるのは、2日に公表された呼吸器感染症。病院側の発表ですから、感染が事実とすると、免疫状態がよくないと思われます。82歳という年齢からも、かなり進行しているのではないでしょうか。一部で指摘されている緩和ケアの導入は、現実的な選択肢だと思います。

 さて、大腸がんの人種差についてご紹介しましょう。米国で人種ごとに大腸がんの罹患率や死亡率について調べた研究があります。それによると、黒人と白人で罹患率も死亡率も格差が大きいことが示されました。罹患率は黒人が白人に比べて20%高く、死亡率は同40%です。

 しかし、遺伝的に同一なアフリカの黒人は、少ない。一方、日本は今、大腸がんが急増していますが、少なかったころの日本人のうち、ハワイに移住した日本人は白人以上に大腸がんが多いと報告されました。

 大腸がんは生活習慣病的な一面があり、肉や脂っこい食事など欧米型の食生活が良くないことが分かってきました。そこに着目すると、人種差などを背景とする遺伝的な影響と悪い生活習慣の影響では、ひょっとすると後者の影響が大きいのかもしれません。

 さて、フランスでは、サッカーの代表選手と一般のフランス人を調べた研究があります。1968年から2015年までのデータをさかのぼり、後ろ向きに調べた研究です。その結果、サッカー選手は、一般国民に比べて全死亡率が31%低いことが分かりました。

 心血管系死亡率もがん死亡率も低く、それぞれ18%、33%低いのです。アスリートならではの健康的な生活、気をつけた食事が影響しているのかもしれません。

 一方、認知症は一般国民より3.4倍も高い。因果関係ははっきりとしませんが、ヘディングの影響があるのではないかという声もあり、大問題となっています。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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