医師が患者から教えてもらいたいこととは? 在宅診療の名医が語る

写真はイメージ
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 医療機関によっては患者を「患者さま」と呼ぶ。医療はサービス業であり、百貨店やホテルと同じく敬称をつけるべきという考えが広がったことや、「患者さま」に続く言葉が丁寧な言葉遣いになる、との効果を狙ったものだと言われている。しかし、「お客さま扱い」された患者の中には、誤った権利意識やお客さま意識から「病気は医師が見つけるのが当然」と考えてだんまりを決め込み、診療の妨げになるケースもある。だが、最善の治療を受けるには患者も「病気を前にして共に闘う者」として医師が求める情報に応える必要がある。毎年在宅で200人を看取る、「しろひげ在宅診療所」の山中光茂院長に聞いた。

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「画像や検査だけでは、名医でも患者に合った薬の調整は難しい。適正な薬を出すには患者さんからの正確な情報が必要です。たとえば、発熱は体温計でわかりますが、どのような出方がするかはわからない。医師の対応は発熱以外の情報で変わることを患者さんは知るべきです」

 つまり、より良い治療を受けたければ、患者は「発熱がある」だけではなく、それに随伴する症状や熱が継続しているのか、上がったり下がったりしているのかなど、熱の出方も医師に伝える必要がある。どのような持病があるのか、アレルギーはどうかなど、自分自身の環境もしっかり伝えるのは言うまでもない。「発熱があれば、医師は一般的に感染症を疑います。しかし、無頓着な医師は発熱だけを根拠にするか、検査をしたとしても炎症反応だけを見て、抗生剤を『とりあえず』出してしまいます。これでは、がんやリウマチなど体に炎症を起こす疾患による発熱を見逃してしまう。それを避けるには患者がもっと情報を伝えなければなりません」

 がんやリウマチ、アレルギーの増悪など炎症性の疾患では、間欠的な発熱になることが多い。感染症で38度の熱が継続的に出るとつらくて苦しく、身動きが取れないような場合がほとんどだ。しかし炎症性の疾患の場合には、39度近い熱が出てもだるくて倦怠感はあるが、「意外に動ける」ケースが多いのだという。

■痛みの種類をしっかり伝える

 痛みは、痛む場所をピンポイントで指し示すことができるのか、刺すような痛みなのか、重だるい痛みなのか、痛みの種類をしっかり伝える必要がある。それにより効果のある薬も異なる。

「痛みは患者さんにしかわかりません。ですから、どんな痛みかを特に正確に伝える必要があります。しかし、筋肉や骨格系の痛みなのか、重だるい内臓系の痛みなのか、自分自身でも区別できない場合もある。実際に胸部から腹部にかけての痛みは、心筋梗塞の前兆としての痛みと胃の痛みの区別はつきにくいし、胆嚢炎と腸炎の痛みもわかりづらい。そこで大切になるのは、それ以外の情報です」

 胃腸炎なら前日からの食事内容や食べた量、吐き気や下痢などその他症状をしっかりと確認する必要がある。心臓の痛みには、高血圧や頻脈、不整脈など何かしらの心臓系の持病があることが多いため、その既往について説明することが大切だ。

「肩や背中の痛みも、実際には狭心症や心筋梗塞の前兆であることもあります。胆嚢炎や胆管炎については、場所やその痛みの出方が大切で、丁寧にその痛みの場所やどんなときに痛くなるのかを説明する必要があります」

 血圧も、診察時の血圧だけで評価され薬を飲み続けるにはリスクがある。家庭血圧計のデータを持参し、可能ならどの時間に高くなるかを示す。また、脈拍情報で薬の選び方も変わる。

「1日1回血圧の薬を飲んでいて、早朝だけ血圧が高くなるのは薬の効果が切れかかっているのかもしれない。なのに朝の薬を増やすと過剰投与になる。高齢者は降圧剤で血圧が下がりすぎてふらついたり、認知症が進行したりする事例もある。家庭血圧計のデータは重要です」

 水分や食事の摂取量も医師に正確に伝えたい。患者はよく「食べていない」「水分も取っていない」と言う。しかし、よくよく聞くと、「牛乳や野菜ジュースは水分じゃない」とか「お茶も水分ですか?」などと口にする。これは、心不全の管理にとって危険だ。

「食べていない」という患者も、「若く健康な時代」を基準に話すため、実際には年齢以上に食べすぎている場合も多い。

 睡眠時間も「全然、寝ていないよ」と言う患者の中には、家族に聞くと「しっかりと寝ています」と答えるケースもある。夜8時に寝て朝4時に起きている場合もあるのだ。睡眠障害には精神疾患が隠れている可能性もある。寝つきが悪いのか、熟睡感がないのか、普段の生活態度はどうか。患者と家族がそれぞれ医師に伝えることが重要だ。

「医師は病気に関しては患者が何も言わずとも察してくれる」というのは幻想だ。良い医療を受けたければ、患者も自分の状態に関心を持ち、医師に正確に語る術を覚えることだ。

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