物価上昇前に検討したい 人工骨を使わない歯科インプラント

入れ歯かインプラントかの選択を迫られた場合は…(C)paylessimages/iStock
入れ歯かインプラントかの選択を迫られた場合は…(C)paylessimages/iStock

 物価がじりじりと上昇している。家庭で消費する物やサービスの値動きを示す10月の消費者物価指数は前年同月比3.6%の上昇(生鮮食料品を除く)と40年8カ月ぶりの水準となった。いまのところ物価上昇のほとんどが原材料費価格の上昇であり、賃金との連動性が高いサービス価格は上がっていない。そのため、物価高騰を強く意識しないで済んでいるが、いずれより多くの人が物価高を実感するだろう。だからこそ価格の安い今こそ、大きな買い物を済ませておくことだ。健康でいえば、「歯」だ。年を取れば必ず「歯」はダメになる。近年、入れ歯をしのぐ人気のインプラントについて、長年インプラント講師をしている自由診療歯科医師で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。

 60歳を過ぎると歯周病や虫歯で急激に歯を失う。そうなると満足に食べられなくなるだけでなく、発音がおかしくなったり、見た目が悪くなったりする。結果、人前に出るのが嫌になり急速に老け込んでいく。これを避けるために、多くの人は入れ歯か歯のインプラントの選択を迫られる。

「歯科インプラント治療とはあごの骨にチタンなどのボルトを埋め込み、その上に人工の歯をつくる治療のことです。元の歯のようになる治療法なのですが、一部の技量が未熟だったり倫理観や責任感のない歯科医師による事件の続発で、怖い治療というイメージを世間に持たれてしまいました。しかし、歯のインプラントには多くのメリットがあります。自分の歯と同じ感覚でしっかり噛めるため唾液やホルモンがしっかり分泌され食べ物を味わうことができる。あごに荷重がかかるため、あごの骨がやせることもない。見た目も美しく、ブリッジや入れ歯のように他の健康な歯に負担をかけることもなく脳も活性化します」

 とはいえ歯科インプラントにはデメリットも存在する。公的保険外なので治療費が高い、手術が必要なうえ抜歯や経過観察期間などを含め1年近くかかることもある、手術後のメンテナンスが必要である、インプラント歯周炎と呼ばれる感染症にかかる場合がある、などだ。

「この中でもとくに患者さんが嫌がるのが長い治療期間と感染症リスクです。その一因にインプラント治療に使われる人工骨と呼ばれる歯科材料があります。インプラントの前治療などに多くの歯科医師は歯周病などで溶けたあごの骨(歯槽骨)を人工骨を使って再生します。それが原因でさまざまなトラブルが発生するのです」 

 人工骨は骨の成分に類似した人工の化合物や牛などの動物の骨を処理したものなどで作られている。その粒子をやせた歯槽骨の上に載せて時間が経つと、骨芽細胞が粒子の間に入り込み、その部分に骨が再生される。そのうえでボルトを埋め込み人工歯冠などを載せていく。しかし固形の人工物を体内に入れるため、手術も大掛かりとなり術後の痛みや腫れが問題になる。

「人工骨は人間にとって異物です。そのため人工骨がある場所に炎症が起きて痛みや腫れが生じる場合があります。細菌が感染するとあご全体が腫れ上がっておたふく風邪のような症状になることもある。その場合は治りにくく人工骨を取り去る手術が別途必要になるケースもあります」

■手術が楽で長持ちする

 それでも多くの歯科医師が人工骨を使うのは、患者のやせた歯槽骨を再生させるには人工骨が必要だと教えられ、信じているからだという。

「私はそうは思いません。現に私は人工骨をまったく使わずにインプラント治療をしており、この治療を始めて15年以上になりますが問題は起きていません」

 木村院長がやせた歯槽骨を再生させる方法は簡単だ。骨を再生したい部分を専用のシートで覆い、コラーゲンや採血により患者自身の血液でつくったフィブリンの塊をその中に入れ、術後の痛みが出ないように処置するだけ。3カ月ほどで骨はインプラントに必要な骨量を回復。最初は治療した骨に負担がかからないよう、硬いものを食べないよう心がけなくてはならないが、1カ月も経つと再生した骨の骨密度が向上して、自家骨と変わらなくなるという。

「人間は欠けた組織を再生する能力があり、再生に必要な時間、細胞、十分な空間があれば再生できます。人工骨は空間をつくるためのものに過ぎず、それ自体に骨を再生する力はありません。私が人工骨でなくコラーゲンやフィブリンを使い、極力固形物を入れないのは早く痛くなく骨を再生するのに役立つからに過ぎません。私は人工骨を使うよりはるかにトラブルは少ないと感じています」

 歯科インプラントを検討しているのなら、人工骨なしのやり方も検討してみてはどうだろう。

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