胆道がんは、東アジアや南アメリカで罹患率が高く、特に日本人は他の東アジア人やアメリカの日系人と比較して罹患率が高い傾向にある。横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学主任教授の遠藤格医師に話を聞いた。
肝臓で作られた胆汁を流す管が胆管だ。肝臓の脇には、胆汁を一時的にためる胆嚢もある。
胆管は、肝臓から出て十二指腸へつながる。胆管、胆嚢、十二指腸とつながる部分の十二指腸乳頭部を胆道といい、これらに発生するがんをまとめて胆道がんと呼ぶ。
「胆道がんは極めて生存率が低く、ワーストワンの膵臓がんの次です」
その理由として挙げられるのが、早期発見の難しさだ。胆道がんで発生する場所は、胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部の順に多く、さらに胆管では肝臓の入り口である肝門部、次いで胆管下部の順。胆道がんの症状として黄疸、腹痛、発熱があるが、いずれの部位に発生した場合も、これらの症状が出るのは進行してからだ。
「そのため、見つかった時はすでに手術ができない進行がん、というケースが多いのです」
手術ができる状態で見つかったとしても、手術の難易度が非常に高い。
「たとえば胆道がんの一つ、肝門部胆管がんでは、肝臓も一緒に切除します。肝臓切除には限界があり、残る肝臓が少ないほど死亡率が高くなります」
米国のデータでは、切除によって肝臓が30%しか残らない人の術後90日の死亡率は25~33.3%。これに対し50%以上残っている人は6.5~9.5%だった。
「また、胆道のドレナージチューブ(細い胆汁の排出用の管)が、残った肝臓にきちんと入っているか。これがうまくいっていないと19%の人が亡くなり、きちんと入っていると死亡率が2分の1に下がることが報告されています。内視鏡医のドレナージチューブの技術も重要になります」
手術が成功しても、その段階では画像検査には映らない微小転移のリスクがあり、それがあると、数カ月、数年後には「再発」となる。
そして、これほど治療の難易度が高い胆道がんだが、専門医が少なく、病院間での治療成績の差がかなりある。
最近、遠藤医師のところへ紹介されて来た胆道がんの患者は、狭くなった胆管を広げ胆汁の流れを良くするために、金属製のドレナージチューブが奥まで入れられていた。
「金属製のステントは胆管を広げて胆汁を詰まりにくくする利点がありますが、ガッチリ奥まで入ると、腫瘍とともに切除するのが難しい。この患者さんは金属部分を摘出しなければならず、そうすると残せる肝臓が小さくなってしまい、死亡率が高まる。もともとは切除できる胆道がんだったはずですが、それができない結果になりました」
胆道がんの確定診断では、胆汁の細胞診が用いられるが、これで診断できる率は40~60%。
「胆道がんが疑われるが、細胞診を何回か行ってもがんを証明できないケースがあります。細胞診にこだわり繰り返していると治療のタイミングが遅れかねない」
■酒のせいだろうと放置せず、高度技能施設で検査、治療を
胆道がんで知っておくべきことは何か?
健康診断で気にした方がいい数値としては、肝機能の数値であるγ-GTP、ALPだ。
「胆汁の流れが悪いと上昇します。ある患者さんは3年前にγ-GTPだけが高いと指摘され、今年、精密検査を受けたら進行した胆道がんが見つかりました。アルコールでも上昇する数値ですが、念のため超音波検査を受ける方がいいと思います」
胆道がんと診断されたら、日本肝胆膵外科学会認定の高度技能施設で検査、治療を受ける。あるいは、診断がなかなかつかない時は、同施設でセカンドオピニオンを受ける。学会のホームページには高度技能施設が掲載されている。
「胆道がんの専門医がいるところほど胆道がんの症例数が多く、適切な処置を受けやすい」
胆道がんは、同じ消化器系のがんである大腸がんや胃がんほどポピュラーではない。しかし、知識を持っておいて損することはない。