「不妊治療」いま押さえておくべきこと 保険適用になって8カ月…何が変わった?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 不妊治療が今年4月から保険適用になっている。何が変わったのか?

 不妊治療を専門とする「松本レディースクリニック」(東京都)の松本玲央奈理事長に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 産婦人科で行われる不妊治療は、「一般不妊治療」と「高度生殖補助医療」がある。一般不妊治療は、タイミング法や、精子を子宮内へ直接注入する「人工授精」。これらで妊娠できない場合に行うのが高度不妊治療で、体外で卵子に精子を振りかけ受精卵を得る「体外受精」と、顕微鏡下で1個の精子を直接卵子に注入して受精を促す「顕微授精」がある。

「保険適用となる治療は人工授精、採卵、体外受精、顕微授精などですが、これまで行っていた治療全てが保険適用ではありません。また、自費診療と保険診療の併用は認められていません」

 保険適用で不妊治療を受けるには、まずいくつかの条件を満たして「不妊症」と診断されなければならない。

 そして高度不妊治療を保険適用で受けるのにも、「機能性不妊」「一般不妊治療が無効」「卵管性不妊」「男性因子(閉塞性無精子症など)」の4つの条件のうち、1つ以上を満たさなければならない。

「医学的な正解と保険の正解が異なり、判断が難しい面があります」

 たとえば「一般不妊治療が無効」。冒頭で触れた人工授精は、精子を子宮内に注入するところは“人工”だが、その後は、“自然の妊娠”と同様だ。

「どこかひとつでもうまくいかなければ妊娠しません。しかし、妊娠までの過程のうちどこに原因があったのかは検査で明確に調べられません。また、加齢で卵子の質が落ちるため一般不妊治療を長々とするのは医学的にお勧めできませんが、『一般不妊治療を何回すれば無効』という回数は決められていません」

 年齢が高い妊婦では早めの段階で高度不妊治療に切り替えた方がいいものの、その判断は主治医に委ねられており、「『そのタイミングでは早すぎる。保険適用にならない』と後々指摘される可能性がゼロではないのです」。

「卵巣機能低下による機能性不妊が疑われる」についても、判断が難しい。

「例えば、40歳以上で卵巣の機能がいい人はほぼいません。医学的には機能性不妊となるのですが、保険適用の条件としての機能性不妊は疾患概念があやふやなため、医学的には機能性不妊であっても、保険ではどうなのか迷うところがあります」

■メリットとデメリット

 2つの例を出したが、それ以外についてもケース・バイ・ケースが多く、戸惑っている医師が少なくない。

「保険が適用されるメリットは非常に大きい。しかし一方で、保険診療はエビデンスがある治療に限られます。妊娠の分野は未知のことも多く、新しい治療の積み重ねで進歩してきましたが、保険診療となると、実績の少ない最新の治療はできません」

 一例を挙げると、近年注目されている病態として、慢性子宮内膜炎がある。軽度の炎症が持続的に子宮内膜に起こっていることを指し、着床不全や妊娠初期の流産の原因の一つとして考えられている。体外受精や顕微授精を受けている人の中には胚移植を何度しても着床しない人が15~20%いて、そのうち14~67.5%が慢性子宮内膜炎という報告もある。

「自覚症状がなく、検査しないとわかりません。これまでは不妊治療で持続して着床できない場合、検査をし、慢性子宮内膜炎があればその治療によって妊娠に至る道を探るという選択肢もありましたが、慢性子宮内膜炎は新しい疾患概念のため保険診療の対象となっていないのです」

 それでも慢性子宮内膜炎の検査・治療を、となると、それ以外の一連の治療が自費になる。打てる手があるかもしれないのに、それを選ぶと膨大なお金がかかるとなると、患者、医師双方とも悩ましい。不妊治療への保険適用は始まったばかり。臨床現場の声を拾い上げ、不妊治療の実態に沿ったものに近づいていくことを期待するのみだ。

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