Dr.中川 がんサバイバーの知恵

箱根駅伝で実況の菅谷大介アナはすい臓がん克服…早期発見には管の拡張をチェックする

本人のインスタグラムから
本人のインスタグラムから

 正月の風物詩といえば箱根駅伝でしょう。そのゴール地点で、駒沢大学が全日本、出雲と合わせて大学駅伝3冠を達成した瞬間を伝えた日本テレビ・アナウンサーの菅谷大介さんは昨年8月、すい臓がんであることを公表しました。人気アナが難治がんを克服したことも話題となっています。

 すい臓がんの5年生存率は、すべてのステージを合わせて12%です。100%の前立腺がん、8割近い胃がん・大腸がんなど治りやすいがんと比べると、厳しい数字となっています。細かい生存率はともかく、皆さんもすい臓がんが難治がんであることは、ご存じかもしれません。

 菅谷さんの良好な経過は、たとえ難治がんでも克服可能であることを物語っています。今回は、そのポイントを紹介しましょう。

 菅谷さんの診断のキッカケは、年に1回の人間ドックでした。腹部超音波検査で異常を指摘されます。それが「すい管拡張」で、すい臓がんを示す重要なサインです。

 すい臓が分泌する消化液のすい液はすい管を通って十二指腸に流れていきます。その管が詰まって、太くなったのが、「すい管拡張」です。詰まらせる要因の一つがすい臓がんで、精密検査が欠かせません。

 その結果、すい臓がんが見つかり、すぐに手術と抗がん剤治療を受けています。早期の「すい管拡張」で見つかり、治療できたことが一つ。

 もう一つは、がんができた部位です。すい臓は頭部、体部、尾部の3つに分かれ、尾部は頭部に比べて早期に見つかりやすい傾向があります。さらに尾部は、頭部より手術がしやすい点も見逃せません。

 すい臓がんが頭部にできた場合の手術は、その部位のほかに十二指腸と胃の一部、胆のう、胆管など周りの臓器をリンパ節や神経と一緒に切除します。切り離された臓器は、それぞれ小腸とつないで、消化液や食べ物の通り道を確保しなければなりません。腹部手術の中で最も難易度が高く、術後合併症の頻度も高いのです。

 一方、中央の体部は、両側を残して切除するため、すい臓機能が良好に保たれやすい。頭部側の切除面は閉鎖し、尾部側の切除面は小腸につなぎますが、頭部の手術より簡単です。実際、体部にできた菅谷さんの手術は4時間で終わり、出血はわずか3㏄だったそうです。術後2週間で仕事を再開できたのは、体の負担が軽かったことの証左といえます。

 また、尾部の手術は、近くにある脾臓と一緒に切除するのみ。小腸とのつなぎ合わせが必要ありません。

 発生部位は運ですが、早期発見の心がけはだれにもできること。すい臓がんは、糖尿病、慢性すい炎、過剰飲酒(日本酒で1日3合以上)、すい臓がんの家族歴、肥満などがリスクですから、これらのリスクがある人は定期的に超音波検査を受けることです。腹部脂肪が多いと、異常がよく見えません。そういう方はMRIを使って精度の高いMRCP(MR胆管すい管撮影)をお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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