膵がんの注目治療「プレシジョンメディシン」 遺伝子変異を解析し薬を選択

早期発見のチャンスを逃さないことが大事
早期発見のチャンスを逃さないことが大事(C)日刊ゲンダイ

 膵がんは、見つかった時には手術が不可能な場合が多い。2012年のデータになるが膵がんと診断された時点で、「局所進行」のステージⅢが18.9%、「転移あり」のステージⅣが47.2%。「局所進行・転移あり=手術が不可能」ということなので、全体の66.1%が「手術が不可能」になる。

 ステージⅢ、Ⅳで手術が不可能の場合、残念ながら「完治」は難しく、「いかに生存年数を延ばすか」が目標となる。行われる治療は、化学療法(抗がん剤)、または化学放射線療法(抗がん剤+放射線)だ。

 この化学療法の薬剤を選択する上で近年、保険適用で行われつつあるのが「プレシジョンメディシン」。18年に日本初の膵臓・胆道の専門センターが設立された富山大学付属病院消化器内科教授の安田一朗医師が言う(以下同)。

「今までは、膵がんならこの薬というように、がんの種類に応じて薬を用いてきました。一方、プレシジョンメディシンは、患者さんのがんに関連した遺伝子変異を解析し、特定の遺伝子変異が見つかった患者さんに対しては、その遺伝子変異に有効性が高いとされる薬を用いる手法です。もし、有効な薬がある特定の遺伝子変異があると分かったら、ない場合と比べて、治療選択肢が増えます」

 切除不能の膵がんと診断された場合に行う遺伝子検査には「生殖細胞系列検査」と「体細胞系列検査」がある。

「血縁家族に膵がんが複数人いる、若年で発症した人がいる、といった場合には遺伝的な要因(特定の遺伝子変異)が疑われます。遺伝的な要因が関係しているのかを調べるのが生殖細胞系列遺伝子検査になります」

 代表的な遺伝子変異として、BRCA(ブラカ)遺伝子がある。

「BRCA遺伝子変異は膵がん、乳がん、卵巣がんなどのリスクを高めることが明らかになっています」

 BRCA遺伝子変異が判明すれば、膵がんの化学療法の標準治療として認められている薬に加え、BRCA遺伝子変異に効果があるとされている治療も選択肢に加わる。

「たとえば標準治療である『抗がん剤の組み合わせA』『組み合わせB』のどちらかで効果が得られなくなった場合、それらの組み合わせを変えた化学療法を2次療法として行います。しかし、BRCA遺伝子変異があると分かっていれば、第3の選択肢として別の薬が加わります」

■少しでも治療の選択肢が増える意味は大きい

 遺伝的な要因を調べる「生殖細胞系列遺伝子検査」以外に、生まれたあとに起こった遺伝子変異、がん化につながった(原因となった)遺伝子変異をがん細胞において調べるのが「体細胞系列遺伝子検査」となる。

「がん化した細胞の遺伝子変異を調べ、どの治療が効きやすいのかを調べます」

 この検査で遺伝子変異が認められれば、その遺伝子変異を持つがんに効果がある薬があれば、次の治療に進む。もし、なければ、その治療には進めない。

「遺伝子変異が認められ、次の治療に進める人は実際には極めて少ないです。それでも、予後が悪く、有効な薬が少ない膵がんだからこそ、治療選択肢が少しでも増える意味は大きいのです」

 これらの最新の治療はどこでも受けられるわけではない。消化器がんの中でも膵がんの治療実績が多いところで受けるべきだ。

 そして、それ以前に私たちが押さえておくべきことは、早期発見のチャンスを逃さないこと。

「1センチ以下で早期発見されれば、膵がんの予後はかなりいいのです」

 腹部エコーで「膵管拡張や嚢胞について指摘を受けた」「膵管内乳頭粘液性腫瘍が見つかった」という人は、膵がんリスクが高い。経過観察はマストだ。症状がないからといって放置すれば、万が一ということがある。心配な人は膵がんドックもある。

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