老親・家族 在宅での看取り方

長く病院とは無縁だが急に体調を崩し慌てて「在宅」を開始するケースも

写真はイメージ
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 自分が病気になった時に在宅医療を実施するとして、そのタイミングはいつがいいのでしょうか?

 たとえ病気になったとしても、まだそれほど病状も進んでいない、自分の足で辛うじて通院できる場合は、やはり無理をしてでも通院することを選ぶ方が多いはずです。

 実際、これまで診てきた患者さんのほとんどが他の病院での入院から、在宅医療へ移られた方。すでに病状も進み、時に重篤な症状となっているケースが大半です。病院内にある看護相談室や退院支援の窓口を通じて、在宅医療を行う私たちの診療所を紹介されています。

 ですが、中には過去に通院歴はあるものの、その後は病院との関わりがない方もいます。

“病気知らずだったから”であればなによりですが、どこかしら不調を抱えつつ、しかし病院へかからず自身の病状や病歴に関する情報があいまいのまま過ごしてこられ、ある日突然に体調が悪化し、慌てて、という方もいます。

 先日も地域包括支援センターから、嘔吐し、歩行困難で、食欲不振の患者さんがいるとの連絡がありました。奥さまと2人暮らしの75歳の男性。急ぎ、自宅に伺いました。

「こんにちは。ご飯全然食べてないですか?」(私)

「昨日、おかゆ3口と野菜ジュースをコップで2杯飲みました」(妻)

「お薬は飲んでいますか?」(私)

「飲んでないんです」(妻)

「糖尿が少しあるとお聞きしたんですが……。そういったお薬も飲んでないですか?」(私)

 なんの事前の準備のないまま、とりあえず在宅医療を紹介されたといったご様子でした。

「吐いたのは?」(私)

「先日でした」(妻)

「どういうものを吐きました? 黒かったり赤かったりは?」(私)

「黒かった」(患者)

「健診とかは?」(私)

「行ってないです」(妻)

 衰弱しているご様子。しかし患部はどこか、問診で手探るしかない。私たちも戸惑いを隠せませんでした。しかし、患者さんにとってなにが一番必要で、どうすれば安心できるのかを考えたのでした。

「血液検査で肝臓が悪いとか貧血があるとかはわかります。ただ、病院で画像検査での精査はした方がいいかもしれないですね」(私)

「そうですよね」(妻)

「今のこの状態なら、奥さまが付き添ってどこかの病院に行き、検査を受けて、そのまま入院した方がいいかと思うんですが」(私)

「そうですか」(妻)

「今、病院に確認してもらっているんですけど、入院が必ずできるわけではないので、そこはご了承ください」(私)

「わかりました」(妻)

 結果、この患者さんは3日後に症状が急変したため救急搬送され、精密検査を受け、ひとまず入院となりました。もちろん患者さんの要望があれば、この続きの医療も私たちの方で引き受ける準備をした上でのことでした。

 患者さんの緊急度に合わせ、柔軟に病院との連携を生かし、時に患者さんにとってベストな状況を考え、提案アドバイスすることもまた、セーフティーネットとしての在宅医療の役割なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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