長引く息苦しさや発熱の正体は「薬剤性間質性肺炎」かもしれない

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 今の時期、咳や息切れ、発熱などの症状が出たら真っ先に頭に浮かぶのはコロナだろう。だが、最近になって新たに薬や漢方薬、サプリメントの服用を始めた人は「薬剤性間質性肺炎」の可能性がある。呼吸器の専門家に聞いた。

 間質性肺炎とは、肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚くなることで肺が線維化し、呼吸困難や低酸素に陥る病気である。この間質性肺炎が薬剤の服用や投与によって引き起こされるものを「薬剤性間質性肺炎」と呼ぶ。発症のメカニズムは明確になっていないが、抗がん剤や抗不整脈薬などに含まれる成分に対する過剰な免疫反応と、漢方薬の成分に対するアレルギー反応によって起こると考えられている。

 じつは記者も半年前、この病気を経験した。鼻の炎症で耳鼻科を受診し、処方された清肺湯を服用したところ、40度を超える発熱と息苦しさに襲われた。漢方薬の服用を始めて5日目のことだった。

 だが、コロナ禍での発熱でなかなか専門医にたどり着けず、大学病院の呼吸器外来を受診するまでにかなりの時間を要した。CTやレントゲン、血液検査などの結果、薬剤性間質性肺炎と診断された。診断が下るまで1カ月ほどかかってしまった。幸い、薬の服用を中止したことで現在は症状は落ち着いている。

「池袋大谷クリニック」の大谷義夫院長が言う。

「2002年、分子標的治療薬であるゲフィチニブによる薬剤性肺障害の報告以降、多数の分子標的治療薬と免疫チェックポイント阻害薬が新たに出てきたことで、薬剤性間質性肺炎の患者数は年々増加傾向にあります」

 実際、医薬品医療機器総合機構(PMDA)によると、現在、肺障害や間質性肺炎を引き起こすとされる薬剤は300品目以上にのぼり、1400件以上もの症例が報告されている。また、2019年にPMDAによって公表された被疑薬の内訳は、多い順に抗がん剤、抗リウマチ薬、漢方薬、消炎鎮痛薬。全体の半数以上を占めるのが抗がん剤であるものの、漢方薬や消炎鎮痛薬といった身近な薬も挙がっているから驚きだ。

■慢性化して死亡するケースも

 昭和大学病院内科学講座主任呼吸器・アレルギー内科学部門の相良博典教授が次のように指摘する。

「放置すると慢性化する危険性があり、最悪の場合、在宅での酸素療法になります。死亡例も発症全体の10%くらいとかなり多く、服用していた薬剤の種類や期間、量によって生命予後に差が出てきます」

 薬剤性間質性肺炎を疑うポイントは次の通りだ。

【新たに薬の服用を始めてから3週間以内に咳、息切れ、発熱の症状がある】

「息苦しさの他に、5日以上の発熱が続く場合には、間質性肺炎、細菌性肺炎なども疑わなければなりません。息切れが長引くようであれば、呼吸器内科を受診してください」(大谷院長)

【60歳以上の高齢者、喫煙歴、肺病変の既往歴、呼吸器の低下に該当する】

「さらに、免疫力が低下している人は特に注意が必要です」(相良教授)

【薬剤性間質性肺炎の発症歴がある】

「すでに発症歴がある人は、他の薬剤によっても引き起こしやすい体質である可能性が高いです」(相良教授)

 薬剤性間質性肺炎を起こさないためには、漢方薬などの服用の仕方にも気を付けたい。

「漢方薬やサプリメントを含むどんな薬でも、薬剤性間質性肺炎を引き起こすリスクがあります。特に漢方薬には似た成分を含むものが多いため、以前に漢方薬で薬剤性肺炎を起こした人は、今後すべての漢方薬の服用を控えるべきです」(大谷院長)

 診断は主にレントゲン写真や高分解能CT(HRCT)の影、血液検査、聴診から行う。薬剤によるものなのか鑑別するために、薬剤服用歴のほか、過敏性肺炎の鑑別、ペット飼育歴やカビの吸入の有無、新型コロナやインフルエンザ、肺炎球菌やマイコプラズマなど感染症にかかっていないかを確認する。患者側は、具体的な自覚症状、服用・使用している薬やサプリメントの種類を問診の際に提示することが、診断の重要な情報となるので、受診の前にあらかじめメモなどにまとめておくといい。

「治療は基本的に原因と考えられる薬剤の服用を中止することです。これにより症状が軽快するようであれば、薬剤性間質性肺炎であると考えられます。しかし、薬の服用を中止しても症状の改善がみられない中等症以上の症例の場合、副腎皮質ステロイドの点滴や内服を行います。それでも改善されなければ、免疫抑制薬を投与するなど、重症度によって治療法を検討しています。年齢による治療法の違いはありません」(大谷院長)

 近年は健康志向の高まりによって、漢方薬、サプリメント、健康食品などを積極的に手に取る人は少なくない。

 だが、体に良いと信じて飲んでいるものが、体質によっては、ダメージをもたらすという意識を持ち、服用の際には十分に注意することが必要だ。

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