「痩せ」が命を縮めるのはどうしてなのか…肥満よりも死亡リスク増

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 近年、高齢者や若い女性の「痩せ」が問題になっている。痩せすぎ体形は肥満体形よりも死亡リスクが高いことが日本を含めた世界中で報告されている。なぜ、痩せは命を縮めるのか。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

「BMI(ボディーマス指数)」と呼ばれる肥満度を表す体格指数がある。「体重(キロ)÷身長(メートル)の2乗」で算出し、22が適正体重、25以上は肥満、18.5未満は低体重(痩せ)と分類される。

 このBMIの値が死亡リスクに与える影響について、日本の国立がん研究センターが調査を実施。中高年の日本人を対象にした7つのコホート研究、計35万人以上のデータをプール解析した結果、男性の総死亡リスクはBMI:23~25未満のグループと比較して、30以上(30.0~39.9)のグループは1.36倍、19未満(14.0~18.9)のグループは1.78倍だった。つまり、太りすぎよりも痩せすぎのほうがはるかに死亡リスクが高いということになる。

 同様の結果は世界各国で報告されている。アジアの研究では、50歳以上の人が低体重(BMI:18.5以下)の場合、死亡リスクが過体重(BMI:23.0~24.9)の2.9倍に上った。欧米の研究では、低体重(BMI:20未満)のグループは、標準体重(BMI20~24.9)のグループに比べて総死亡率が1.37倍にアップしている。

 病気別に見ても、男性のがん死亡リスクは肥満よりも痩せのほうが高く、同じく心血管や脳血管の病気による死亡リスクは、BMI:23~25未満のグループと比べると、21未満は高くなっている。

■筋肉量が減少すると病気になりやすい

 低体重=痩せすぎの人は、「筋肉」と「脂肪」が減った状態といえる。いずれもわれわれの体にとって重要な働きがあるので、これらの減少は健康を維持するうえで大きなリスクになる。

「筋肉は体重の40~50%を占めていて、心臓が全身に送り出す血液の“受け皿”になっています。体の隅々を巡った血液を心臓に戻す際には、ふくらはぎなどの筋肉(骨格筋)がポンプの役割を担っている。そのため、筋肉量が減ると心臓に戻る血流が減り、血圧の調節が不良になります。すると、心臓は血流を確保しようとフル回転を強いられ、負担が増大するのです。痩せている人が高血圧症などの危険因子を1つ以上持っている場合、心血管疾患の発症率は危険因子がない太り気味の人の約2倍になるといわれています。また、筋肉は脳神経細胞や代謝免疫作用を活性化させるマイオカインという生理活性物質を出します。リンパ球などの免疫細胞を活性化させるグルタミンも多く蓄えられているので、筋肉量が減ると免疫力の低下を招き、肺炎などの感染症やがんにかかりやすくなると報告されています。さらに、筋肉は血糖値の調整も行っているので、筋肉量が減ると血糖値が上昇して糖尿病リスクもアップします」

 近年、高齢者で問題になっている「サルコペニア」は、加齢によって全身の筋肉量と筋力が減少し、身体能力が低下した状態を指し、さまざまな病気の原因になる。やはり痩せすぎはリスクといえる。

 脂肪も健康を維持するうえで欠かせない役割があるという。

「脂肪は、タンパク質・炭水化物と並ぶ3大栄養素のひとつで、われわれの体の約20%は脂肪で構成されています。エネルギー源の貯蔵庫としてだけではなく、ビタミン類の消化・吸収・運搬、体温の保持、臓器の保護、ホルモンなどの生成や分泌といった働きを担っています。そのため、脂肪が少なすぎると、外気温の変化への対応がうまくできなくなり、免疫力が低下して病気にかかりやすくなります。とりわけ、がん細胞はエネルギーを消費するため、栄養状態が悪く痩せている人は、それだけ早く体力が奪われ、がんに対する抵抗力が失われてしまいます」

 過度の肥満も健康を害するが、痩せすぎはそれ以上にリスクが上がる。自分は痩せすぎかもしれないと感じたら、筋肉と脂肪を維持するために食事の回数を増やしたり、高タンパクな食材を意識して摂取したり、スクワットなどの筋力トレーニングを実践すると効果がある。健康寿命を延ばしたいなら、最も死亡リスクが低いBMI:25~30の“小太り”を目指すべし。

関連記事