「40歳くらいで糖尿病になって病気生活が始まったんです。次になったのが12年前で、多発性骨髄腫。狭心症、脊柱管狭窄症もあって、腰と心臓も悪いですね。あと3年前に胃から出血して倒れちゃって、輸血しました。生活の質に関わってくるのが胃腸障害です。下痢と便秘を繰り返して。耳鳴りがずっとあって、夜中ずっと……」
妻と息子さんと同居する、90歳になる男性患者さんと最初に会った時、息子さんから聞かされたのは、患者さんの病歴と現状でした。
そもそもこの方が私たち診療所で在宅医療を始められたきっかけは、ご本人が通院する大学病院のかかりつけ医師から、訪問診療と訪問看護、訪問リハビリを入れたらと勧められたこと。そのため普段の体調管理は在宅医療でおこない、通院して併診することを希望されていました。
「難聴と耳鳴りがあるんですね、めまいはありますか? お医者さんからなにが原因だと言われましたか?」(私)
「これはどうしようもない、糖尿からのものだと言われています」(患者)
「付き合っていくしかないかなという感じです」(息子)
気丈に振る舞う息子さんですが、それでも初めての在宅医療への不安は隠しきれないご様子。
「私たちが入ったからといって大学病院との縁が切れるわけではないです。みんなでチームになっていきます」(私)
「はい」(息子)
私たちになんでも相談できることを理解してくれてからは、息子さんから具体的な要望がいくつも飛び出してきました。
「はい、もう薬がすごく多いんです。今からも12個も飲むんで減らしてもらいたいです」(息子)
「またお薬見させていただいて、減らせるかもしれないですね」(私)
「今までも抗がん剤の治療は行っていて、6年前の抗がん剤治療が最後でした。めまいとか結構ひどくて中断してもらいました。腎臓も危ないですよって言われていて」(息子)
「そのことについてはどうしたいですか?」(私)
「消化器の先生に見てもらったら、腎臓内科に紹介してもらったほうがいいじゃないですかって言われたんです。最終的に透析になるよって。腎臓をどうにかしたいです。病気も心配だけど透析も心配だし」(息子)
「やるにしろやらないにしろ、こちらから先生と相談することもできます。あと、透析は断ることもできますから」(私)
「そうなんですね、知らなかったです」(息子)
「うちにも血液内科の先生もいますから」(私)
一つずつ疑問と不安を消し一緒に希望を見つけていく。“相談員”としての役割も、在宅医療には重要な役割。
「これからは自分のしたい楽しいことばっかりするっていうのもひとつですね」(私)
「旅行にも温泉にも行きたいんです」(患者)
「そうですよ、どこの温泉がいいですか?」(私)
「うーん、草津温泉。やっぱりあそこの温泉がいい」(患者)
尽きない話は病気だけではありません。