力士だけじゃない… “現役引退後”の健康維持には食事と体重管理に気をつけるべし

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 アスリートであれ、サラリーマンであれ、いつかは現役を引退するときが来る。そのとき注意しなければならないのは食事だ。現役を全うするために食べていた量と内容を“引退後”の生活に沿ったものに見直さなければ健康を維持できない。早稲田大学時間栄養学研究所招聘研究員であり、アスリートフードマイスター認定講師でもある、愛国学園短期大学非常勤講師の古谷彰子氏に聞いた。

 現役後の食事の仕方を含めた、生活習慣の見直しが健康に直結している職業のひとつが力士だろう。1980~2002年に亡くなった幕内経験力士100人の死亡時平均年齢は63.3歳で、02年の日本人男性の平均寿命78.32歳よりも15歳近く短命というデータがある。

 ある相撲部屋の食事内容を調査した報告によると、力士は早朝から激しい稽古をして、腹ペコの状態で肉、魚、野菜たっぷりのちゃんこ、ご飯などの炭水化物を食べてから、昼寝をする。午後も稽古や夕食がある。

 ちゃんこ自体は野菜が多くカロリーは比較的低いものの、朝食を取るタイミングを遅らせ、たくさん食べることで体を大きくしている。しかも、間食や夜食を食べる力士も多く、その量や内容は自由。栄養バランスが偏る可能性も高い。

「現役の力士は太っているとはいえ、運動量が多く筋肉がたくさんついており、内臓脂肪が低く、血圧も比較的低めの傾向にあります。ただ、大きな体を支えるための膝や腰の疾患、急激な血糖値上昇による血管へのダメージ、大量の飲酒による糖尿病など生活習慣病リスクも高い。しかも、力士によっては稽古場では人一倍体を動かしながら、普段の移動はほとんどタクシーという人もいます。ですから、引退後は、食事や運動などの生活習慣を入門前に戻すことが健康のために必要となります。しかし、それらをなかなか変えられないために多くの力士が苦労するのです」

 朝食の時間を戻して1食あたりの食事量や食後の昼寝などを改め、適度な運動を継続すれば体重はある程度戻る。しかし、現役時代にコーチや栄養士により厳格に管理されていた運動と食事を、引退後に自身で調整するのは困難だ。特に力士は取組のないオフの時期がアスリートの中でも短いため、現役時代の食事のクセが抜けづらい。そのため、力士の中には引退後に食事の量が多くならないように胃のバイパス手術をする人もいる。

■栄養士に相談するのも手

 力士ほどではないが、引退後の体重管理に苦しむアスリートはいくらでもいる。現役の間は食べることも仕事の一部であり、無理して食べるクセがついているからだ。

 そもそも、運動した後は食べられないのが普通だ。ドレクセル大学院の研究によると、早歩き以上の中~高度の運動を60分以上した後から、食欲を促すホルモンであるグレリンが減少し、食欲を抑制するホルモンであるペプチドYYが急増したことがわかっている。

 つまり、アスリートはキツい練習後に食欲がなくても、仕事として頑張って食事を取っており、現役時代はそれが習慣化されている。

「現役時代に脳に刻まれた食事のクセを少しずつ直す必要があります。たとえば、練習前後の補食をやめること。これらは練習で補い切れないエネルギーを補うためのもので、引退後は必要ありません。また、アスリートは時期によっては炭水化物やタンパク質を多めに摂取しますが、それも必要ない。ですから、引退を決めたアスリートは3食の内容を見直す必要があり、栄養士に相談する人も多い」

 これはサラリーマンにも言えることだ、と古谷氏は言う。

 通勤で地下鉄などの階段を一日何度も上り下りしていた現役時代と同じように、朝、昼、晩と食事を取り、お酒を飲んでいれば、太るのは当たり前。まして、食欲がなくても昼休みが決まっているので無理に食べていて、それが習い性になっている人もいる。

「ならば引退後の食事量を減らせばいいのだろう、という人がいますが、食事は減らしつつ、バランス良く食べることの方が難しい。適当に減らすと栄養不足になる可能性があります。年齢が上がると代謝も落ちます。できたら、退職後に栄養士に相談して食事量や内容が適正か見てもらった方がいいでしょう。それが無理なら体重を量り、急な増減がないかをウオッチすることです。そのためサラリーマンは引退後は体重計に毎日乗る習慣をつけた方がいいでしょう」

 定年後は食事の取り方によっては栄養過多で醜く太ったり、栄養不足で年齢より年寄りじみたりする。美しく元気で健康に年を取るには、適切な運動習慣とともに正しい食事が欠かせない。あなたは大丈夫?

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