健康の「素朴な疑問」

「モーツァルト」を聞くと頭が良くなるのは本当か? 集中力が高まる?

写真はイメージ(C)iStock
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【Q】娘から、孫が来年私立中学を受験すると聞きました。「いまの子供は大変だなあ」と思いつつ、机に向かう孫を見ているとイヤホンで音楽を聴きながら勉強をしている様子。妻に「あれじゃ期待薄だな」と言うと、「あら、音楽は頭を良くするみたいよ」とのこと。音楽を聞くと頭の回転が良くなるというのは本当ですか?


【A】モーツァルトを聞くと「集中力が高まる」「胎教に良い」などという話があります。そのもとになったのは、1993年に米国の心理学者が有名な学術誌「ネイチャー」に発表した研究論文です。大学生31名にモーツァルト作曲の「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448」を10分間、聞かせた直後にIQテスト(空間認識)を受けさせたところ、そうでなかった時よりも成績が良かった、というものです。「モーツァルトの曲のテンポやリズムなどが脳全体を活性化させるのでは」というので、モーツァルトのCDがたくさん売れたことを記憶されている人も多いのではないでしょうか?

 その後、追試がいくつも行われ、たくさんの論文が報告されました。その中には「モーツァルトだけでなく音楽ならすべて良い」というものから、「まったく効果はない」というものまで、さまざまな結果が示されました。現在もその結論は出ていません。

 そもそも人は音を鼓膜で空気の振動としてとらえます。その振動は内耳の感覚細胞で神経信号に返還され、大脳皮質に向かって伝達されます。その過程で音を構成する信号の性質は変形・加工され、皮質聴覚野で知覚され認識されます。このとき、音の大きさや高さなどは第一次聴覚野で認識されますが、それだけでは「音楽を聞く」ことにはなりません。リズムやピッチ、音色やメロディーなどを認識するにはより高度な脳の機能が必要で、聴覚野のニューロンの興奮が大脳皮質の他の領域に伝えられ、情報処理されたうえで、側頭葉にある聴覚連合野に送られて、音楽として認識されるのです。ですから、事前に「音楽を聴く」ことは脳全体を活性化し、そのことにより、空間認識問題が解決しやすくなったと考えられます。

 ただし、音楽はモーツァルトである必要はなく、楽しめる音楽なら何でも良いという意見もあります。ちなみに、さまざまな実験から胎児に音楽は伝わっているといわれますが、胎児がそれを楽しんでいるかどうかはわかりません。

(弘邦医院・林雅之院長)

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