寝起きに足の踵がひどく痛む…その症状は「足底腱膜炎」かもしれない

ゴルフボールを足裏に当ててコロコロ転がす(提供写真)
ゴルフボールを足裏に当ててコロコロ転がす(提供写真)

 朝、目が覚めて、起き上がろうと一歩踏み出した途端、足の裏に痛みを感じた経験はないだろうか。ランニングの習慣があったり、革靴を履く頻度が高い人は「足底腱膜炎」の可能性がある。「都立大整形外科クリニック」の理学療法士・小尾尚貴氏に聞いた。

「足底腱膜炎」とは、踵の骨から足の指に向かって広がる足底腱膜が踵にくっついている部分で起こる炎症が主な原因である。足底腱膜が硬くなることで、伸び縮みの動作がスムーズに行えず、足の裏に痛みが生じてしまうことがある。

 足底腱膜が硬くなる理由としては、足裏に過度な負荷がかかることが挙げられる。

 近年の靴の発達や、足指の機能低下などから、現代人は足のアーチを維持する力が弱くなっているという。このアーチ機能が低下すると、地面からの衝撃を受けやすくなり、足底腱膜への負担も多くかかる。

 過度なランニングやジャンプを行うオーバーユーズなど、足底に過剰なストレスがかかり、発症するケースが最も多い。ほかにも、アスファルトなど硬い地面上での運動、サイズが合わない靴を履いて足裏に負担がかかることも原因になる。長時間の歩行や立ち仕事、加齢や肥満、履き慣れていない靴の使用などさまざまな要因によって誘発するとされている。

「年々、患者数は増加しており、当院では多くて年間500人程度の足底腱膜炎の患者が来院します。仕事柄、革靴を履く頻度が高い30~60代の男性に多い印象があります。30代でランニングを始め、40、50代になったタイミングで足底腱膜炎を発症するケースも多いです」

 都立大整形外科クリニックでは、足の治療を要する疾患のうち約2~3割程度を足底腱膜炎が占めており、かなり身近な疾患であることが驚きだ。

 悪化した場合、長く続く痛みのためベッドから起き上がらなくなるなど自発的に動かなくなり、体力や筋力が落ちて生活意欲が低下し、健康寿命に影響が出る可能性もある。

 発症を防ぐためには、日頃から足指のトレーニング、ストレッチ、足の形に合ったインソールの使用などが有効だ。

「歩行時に足底全体がピンと張る感じや、寝起きに足の違和感、長時間の歩行で痛む、踵を押して痛む場合は足底腱膜炎の可能性があります。少しの痛みでも感じた場合は、まずは整形外科を受診してみてください」

 診断は主に問診や診察、レントゲン検査、超音波検査で腫れや炎症を確認する。場合によってはMRIを用いて、より精密に炎症の程度や範囲、腱の損傷度合いを判断し診断される。

 足底腱膜炎と間違われやすい疾患には、線維腫や踵へ向かう脛骨神経の絞扼性神経障害、踵の疲労骨折、腰からの神経痛などがある。足底腱膜炎と思い込んで受診する人も少なくないが、違う場合もあるので注意が必要だ。

■ゴルフボールで簡単予防

「足底腱膜炎の治療は、痛み止めや塗り薬の処方、リハビリ、インソールの作製が基本です。約7割以上の患者さんはこれらの治療で症状が治まります。通院を1~2カ月続け、症状の経過を観察しながら、患者さんに合った治療法を選択していきます」

 最近では、体外衝撃波という腎結石の治療で使用されていた体外衝撃波治療が整形外科分野でも幅広く利用されている。6カ月以上、保険治療で治療していても治癒しない場合には「難治性足底腱膜炎」とされ、体外衝撃波の適応となる。

「当院では、足底腱膜炎の患者さんのうち約1割が難治性に移行し、体外衝撃波を実施されます。体外衝撃波には主に短期的な効果と長期的な効果の2種類があります。短期的には疼痛を誘発している神経の終末部を破壊して痛みを軽減します。長期的には衝撃波によって成長因子を生み出し腱組織の再生を促す効果があります。当院では、足底腱膜炎と診断された患者さんのうち、年間約50人程度に体外衝撃波を実施していて、7割以上で症状改善の効果を認めています。1~2年以上も続いていた症状が軽減する患者さんもいます」

 予防法のひとつに、ゴルフボールやテニスボールを使った自宅で簡単に行えるストレッチ法がある。これは、椅子に座った状態で足底にボールを当てながらコロコロと転がすことで、硬くなった足底の筋肉をほぐす効果をもたらす。テレビを見ながらでも手軽に行える。

 足底腱膜炎は慢性疾患に分類され、足を長期間にわたって使ってきた中高年から高齢者は誰でも発症する可能性がある。自宅で簡単に取り組めるストレッチから始め、健康な足を維持しよう。

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