相性が合う医師を求め…精神科医は5回代えても代えすぎではない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 精神科の通院患者数が近年増えている。しかし、「なかなか名医に出会えない」といった声も少なくない。

「現在の精神医療は、膨れ上がる患者のニーズにもはや応えられる構造にはないのです」

 こう話すのは、名医に巡り合えない理由を書き記した「精神科医に、ご用心!」の著者で現役精神科医の西城有朋氏。

 この10年で、精神科は医師増加数の多い科としてトップ5に入っており、厚生労働省は「増員不要な科」と名指しで吊し上げている。しかし、現実には精神科の予約がなかなか取れないということも珍しくはない。

「厚生労働省の需給の見通しは完全に見誤っています。精神科医の増え方は、せいぜい1.2倍と微増。それに対して精神科外来患者数の増えるペースは倍増と、はるかに速い」(西城氏=以下同)

 医師の都市部偏在は社会問題だが、地方では精神科医を見つけるのが困難という地域もあり、数不足は歴然と存在する。それ以上に追いつけていないのは、「質」だ。

 精神疾患はうつ病だけではない。統合失調症に躁うつ病、適応障害、パニック症などの不安症、PTSD、薬物やアルコールなどの依存症、パーソナリティー障害、認知症、近年激増する発達障害など、扱う領域が膨れ上がっている。

「一方では、専門的な細分化も進んでいます。これらの全てが“精神科”とひとくくりにされ、1人の精神科医に治療能力まで求められてしまっているのです」

 たとえば内科ならば「循環器内科」「消化器内科」「腎臓内科」と分業化されているが、精神科はそうではない。患者が特殊な児童思春期でも、児童精神科医などは非常に少ないため、詳しくない一般精神科医が対応せざるをえない。

 そこで医師以外の多職種連携がカギになるのだが、たとえばこれまで7万人超が誕生した公認心理師はいまだに外来診療上、一銭も診療報酬は認められておらず、完全に形骸化しているのが実情だ。

「結果、割を食うのは患者です」

 西城医師は、こんな例を挙げてくれた。

 友人の精神科医の母親が日中の疲労や体の痛みを訴え、何も楽しめず寝たきりになってしまった。精密検査では体の異常はなし。友人の父親も精神科医で、伝統的な精神医学を重視するタイプ。友人は抗うつ薬の処方を提案したが、父親は「憂鬱さを訴えないので、本物のうつ病ではない。これはストレス反応(適応障害)で、抗うつ薬は効かない」と激怒した。

「欧米ではすでに80年代に、『憂鬱さを訴えないうつ病も実は半分』『うつ状態の原因が病気かストレス性かという精神科医の診断一致率は、信頼性を欠く』といった議論に決着がついています。しかし日本では、こんなガラパゴス医師がいまだに多いのです」

 結局、母親は効果のない漢方薬と精神安定剤を中止して抗うつ薬を服用。数日後には症状は消えていった。

■思い込みから効かない薬を漫然と処方する医師も

「誰がどう見てもうつ病という病態であればガラパゴス医師でも対応できます。しかし現実には、医師の『うつ病じゃない』という思い込みから、長期にわたって効果のない漢方薬や安定剤が漫然と続けられ、人生の貴重な時間を失い、中には退職に追い込まれる患者も少なくない。薬が全てなどというつもりはありませんが、有効な他の手も打たずに飼い殺しにするくらいなら、抗うつ薬を含む積極的な薬物療法を試してほしいのです」

 以前、精神科の学会は治療指針に沿った薬物療法を専門医に呼びかけていた。この“治療指針に沿った”は一見もっともらしく聞こえるが、治療指針は海外では非専門医や若手のためのもの。

「専門医はさらに一段上級の治療として、治療指針に沿った薬物療法で治らない患者に、豊富な知識と経験を駆使し、創意工夫を凝らした治療を行うべき。学会の提言は、あまりにも薬の使い方がひどいので、せめて指針程度には使ってほしいという懇願だった」

 残念ながら、名医は簡単には見つからない──。こう西城医師は言うが、せめて次のことは念頭に置いておくべきだとアドバイスする。それは「症状が改善しなければ、医師を代える」ということ。

「精神科は医師と患者の相性が重要。米国精神医学会は、相性が合わなければ医者を5回代えても代えすぎではないという見解を示しています。『うつ病なら最初の抗うつ薬が無効でも、4回の試行錯誤で7割弱が寛解に至る』というエビデンスがあります。結局、精神科医も試行錯誤で探し続けるというのが名医にたどり着く正攻法です」

 必ず名医との出会いがある。そう信じあきらめないことが大切だと、西城氏は強調した。

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