健康の「素朴な疑問」

なぜ、新型コロナの重症者や死者は男性の方が多いのか?

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【Q】よく女性は男性よりも病気に強いと言われます。新型コロナ感染症でも、重症化する人や亡くなる人は男性が多くて女性が少ない。なぜですか?

【A】厚労省が公表している「データからわかる 新型コロナウイルス感染症情報」の性別・年代別重症者数(2023年2月15日~2月21日)を見ると、60代では男性19人、女性4人で、70代では男性26人、女性9人です。同じ期間の累積の性別・年代別死亡者数では60代男性2773人、女性922人、70代はそれぞれ8097人、3466人と明らかに男性より女性の方が重症者、死亡者ともに少ないことがわかります。

 それにはさまざまな理由が考えられます。たとえば、男性と女性とでは行動様式や社会活動に違いがあるなどです。そのひとつに性染色体や性ホルモンが異なることで、免疫応答に違いが生じることがあります。

 今回は性染色体のお話しをしましょう。ご存じのようにヒトの免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」がありますが、どちらも女性の方が強いとされています。たとえばがんによる死亡率は女性は男性の半分程度ですし、インフルエンザを接種した後の抗体価の上がり方は女性の方が強いことが知られています。

 逆に免疫応答が強いが故に、アレルギーなどの自己免疫疾患は女性の方が多いことがわかっています。なぜか。理由のひとつにX染色体不活性化機構が関係していると言われています。

 ヒトの体は37兆個の細胞で出来ていて、そのひとつひとつの細胞の中心に染色体があります。染色体は遺伝情報が詰まったDNAを折りたたんだもので、親から子に受け継がれる遺伝情報が収められています。染色体には常染色体と性染色体があり、父親から受け継がれるものと母親からのものが対になっていて、ヒトは23組(46本)あり、性染色体は1対(2本)あります。

 性染色体は性別に関わる染色体でX染色体とY染色体があり、通常は男性がXY、女性はXXです。このうちX染色体には自然免疫系遺伝子と獲得免疫系遺伝子が多数存在します。しかし、このままだと男性と女性、つまりオスとメスの間で遺伝子量が変わってしまいます。そこで、女性の2本あるX染色体のうち1本を不活性化する仕組みが備わっていて、これが先述したX染色体不活性化機構なのです。

 ところが、この機構には不完全なところがあり、結果として男性よりも女性の方が免疫に関する遺伝子が多く発現するために、女性は男性よりも感染症に強い半面、アレルギーが多いのではないか、と言われているのです。

(弘邦医院院長・林雅之)

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