健康長寿のカギは腎臓にあり

「腹膜透析」は血液透析より自分で尿を作る力を温存できる

腹膜透析という選択肢も…(写真はイメージ)
腹膜透析という選択肢も…(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 医療機関では略して「PD(Peritoneal Dialysis)」と呼ばれる腹膜透析。

 腹膜は、胃や腸などの臓器を覆っている薄い膜で、これを透析膜とし、カテーテル(細い管)を通してお腹の中に透析液を一定時間入れておく。そうすると、血液中の老廃物や塩分などの余分なものが腹膜を介して、お腹の中の透析液側に移動するという仕組みです。腹膜透析は、カテーテルをお腹に挿入する手術が必要となります。

 腹膜透析には2種類あります。

 ひとつは、CAPD(連続携行式腹膜透析)。簡単にいうと、老廃物がお腹の透析液に移動したら、そのバッグを捨て、新しい透析液バッグを注入する方法です。およそ4~8時間ごとに1日数回(自分、もしくはご家族の手で)繰り返します。大きな装置は使用しないので、ご家庭や職場でも行えます。

 もうひとつはAPD(自動腹膜透析)で、サイクラーと呼ばれる自動腹膜灌流装置を使います。この装置が、夜寝ている間に透析液を自動的に交換します。夜間透析となるため、日中の時間が有効に使えます。

 腹膜透析は、時間をかけて透析を行うので、血液透析に比べると体への負担が少ない。そのため、心臓などに持病がある患者さんはこちらを選択することも。また、週3回病院に通う血液透析と比べると、自由な時間が多く持てます。

 患者さんから「腹膜透析ファーストってなんですか?」と質問されたことがあります。

 腹膜透析は、血液透析と比較して自分で尿を作る能力を温存することができます。そのためまず腹膜透析から始めて、できるだけ尿量(残った腎機能)を保つことを目標とする。その後、腎機能がさらに落ちてきたなら血液透析に移行する。そういう考え方が腹膜透析ファーストです。腎機能低下スピードがゆっくりな患者さんに、ライフスタイルとの兼ね合いで適していると判断された場合に病院から提案されることが多いです。

 高齢の患者さんに透析が必要になった場合は、体の負担を鑑みて血液透析を行わず腹膜透析を選択することも。透析医療の終末期のひとつの手段として、「腹膜透析ラスト」という選択が取られることもあります。

 私のクリニックでは透析をしていませんが、透析にならないために受診している患者さんから「人工透析になったから、もう終わりだ」と言われることがあります。

 お気持ちはわかります。しかし透析治療中でも、旅行やゴルフをする患者さんもたくさんいます。もちろん透析にならない方がいいと思います。ですが、どれだけご本人が頑張ってもなってしまうこともある。

 先日、残念ながら透析になり他院に転院された患者さんが、別件で1年ぶりに当院を受診。元気そうな顔を見せてくれました。そんな姿も、腎臓病で悩む多くの患者さんに知っていただきたいと思っています。

森維久郎

森維久郎

三重大学医学部卒業。日本腎臓学会専門医。2020年5月、腎臓内科、糖尿病内科、生活習慣病の診療に特化したクリニックを開院。腎臓について伝える情報サイト「腎臓内科ドットコム(https://jinzonaika.com/)」を監修。

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