10人に1人が「爪水虫」分厚い爪や濁った爪があれば皮膚科へ…転倒リスク2倍との報告も

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 足の爪に悩みを抱えている人は約50%──。全国の男女1025人を対象に行われた「『足の爪』に関する調査」(合同会社ひまわりコーポレーション)の結果だ。一方、別の調査で、「足の爪に悩みがある人のうち相談するところがないと回答した人は約8割」(東銀座ウェルズクリニック)という報告もある。

「足の爪のトラブルは蓄積します。始まりはだいぶ前で、気づくのはだいぶ後なのです」

 こう言うのは、済生会川口総合病院皮膚科主任部長の高山かおる医師。2007年に東京医科歯科大学付属病院で当時はまれだったフットケア外来を開設し、現在は済生会川口総合病院の専門外来で足と爪の治療にあたっている。

 足の爪のトラブルはさまざまあるが、その代表格とも言えるのが爪白癬(爪の水虫)だ。

「2009年のデータでは、10人に1人が爪白癬。高齢になるほど罹患率が高くなるので、超高齢社会の今、もっと増えていることが予想されます」

 爪白癬はたいていの場合、足白癬(足の水虫)から始まる。足の指の間に水疱ができ、かゆくなり、皮が剥ける。最初は自覚症状があるが、慢性的に足白癬ができるとかゆみがなくなり、症状がないように思い放置してしまう。そのうち白癬菌が爪の下に入り込み、爪白癬へと発展する。

「爪白癬で爪が分厚くなり、切りにくくなっても、痛みがなければ問題ないとしてしまう。また、人の足の爪がどうなっているかまで普通は見ておらず、自分の爪しか知らなければ、それが正常だと思ってしまう」

 さらに放置すると、爪白癬は進行し、爪が変形。床からの圧力をうまく受けられず、体を支えることが難しくなり、転倒リスクが高まる。爪が肥厚すると転倒リスクが2倍高くなるという報告もある。糖尿病がある人では、爪白癬の2次感染で足の壊疽を起こし、切断を招くことにもなりかねない。

「爪白癬があると外的な刺激を受けやすく、傷ができやすいのです。私の外来では、爪白癬で足の指や脚を失うところまで至った患者さんが毎日のようにいらっしゃいます」

■市販薬では治らない

 爪白癬の症状は「爪が白や黄色に濁る」「爪が厚くなる」「爪がボロボロになる」。「年を取ったらこんなもの……」などとは思わずに、速やかに病院を受診すべきだ。爪の悩みは、皮膚科の領域となる。

「爪白癬が疑われる場合、爪の下から検体を採取し、顕微鏡で観察します。これで白癬菌の菌糸が発見されれば爪白癬と診断します。爪白癬は、検査をしない限り診断をつけられません。熟練の皮膚科医でも、爪白癬の50%ほどしか見た目で診断できないといわれています」

 爪白癬に、自然治癒はない。爪白癬を治療しなければ、足白癬を治したとしても、白癬菌は爪にすみ着いているので、足白癬を何度でも再発する。

「爪白癬の治療には塗り薬または飲み薬を用います」

 一般的に、飲み薬の方が塗り薬より効き目が強い。ただ、副作用の問題もあるので、医師が患者の状態を見て、最も適切なものを選ぶ形になる。

 現在、爪白癬の処方薬は塗り薬が2種類、飲み薬が3種類。爪白癬の薬は、変形・変色した爪を元の形に戻すものではない。薬の有効成分が効いてくると、感染した爪が押し出され、根元から健康な爪が生えてくる。足の爪が完全に生え変わるまで時間がかかるので、爪白癬の治療も時間がかかる。

「治療期間は、塗り薬で約1年、飲み薬で3~6カ月ほどかかります」

 足白癬の薬は、薬局やドラッグストアでも買える。スイッチOTC薬(処方箋がなくても購入できる薬)なので、病院に行かなくても治療は可能だ。しかし爪白癬は、同じようにはいかない。

「爪白癬の薬は、塗り薬も飲み薬も処方薬のみです」

 足白癬の塗り薬を爪に塗っても、爪白癬は治らない。

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