繰り返す気管支炎、肺炎、中耳炎…「原発性免疫不全症」かもしれない

診断に至っていないケースも
診断に至っていないケースも

 東京都では4月1日から「拡大新生児スクリーニング検査」が開始された。日本では公費で20の病気に対して「新生児スクリーニング検査」が行われているが、対象外の7つの病気に対して、有料でスクリーニング検査が行われる。そのうちの1つが、原発性免疫不全症(PID)だ。

 免疫機能に異常があるのが「PID」だ。詳しくは後述するが、PIDを疑うキーワードとして、「繰り返す気管支炎、肺炎、中耳炎」が挙げられる。

 多くは先天性なので、新生児のスクリーニングで発見することが望ましい。しかし東京都では始まったばかりであり、スクリーニングの対象としていない自治体もある。

「認知度が低く、診断が難しい。診断がつかないまま現在に至る成人患者さんも少なくない」

 こう指摘するのは、患者会「NPO法人PIDつばさの会」代表医療顧問で、東京医科歯科大学大学院小児地域成育医療学講座の金兼弘和教授。調査では成人患者が3割となっているが、「実際は5割くらいいるのでは」と話す。

 PIDでは免疫機能に異常をきたすので、感染症を起こしやすい(易感染性)。「気管支炎や肺炎、中耳炎などを繰り返す」「重症化しやすい」「抗菌薬を使ってもなかなか改善しない」「弱毒性の病原体(例えばカビ)でも感染症を起こす」──。

「アレルギー、自己免疫疾患、悪性腫瘍(がん)も起こりやすい。がんを発症し、検査でPIDがわかるケースも」(金兼教授=以下同)

 重要なのは、感染症、アレルギー、自己免疫疾患、がんを発症する前に、PIDを発見し、治療を行うことだ。

 治療は、「感染症に対しての薬による治療および予防内服」「免疫の中で大きな役割を持つ免疫グロブリンの補充療法」「重症のPIDに対しての臍帯血移植や骨髄移植」など。免疫機能のどこに異常があるかで、治療法が変わる。

「患者さんに応じた適切な治療で、健康な人と同じように日常生活を送れるようになります」

■「10の徴候」でチェック

 診断が難しいと前述した。そうはいっても小児科医ではPIDを念頭に置いて診察する医師もいるが、問題は成人のPIDだ。「PID=小児の病気」と捉えられる傾向があり、成人を診ている医師は、PIDの知識が一層乏しい。

 50歳でPIDという診断を受けた女性(囲み参照)は、自身も医師。自分の疾患が何かわからず、複数の病院で検査を受けたものの、長らく正しい解を得られなかった。

「参考にして欲しいのは、PIDの『10の徴候』です。世界中で翻訳されています。小児では1つ、成人では2つ、該当すれば、PIDの可能性が考えられます」

 成人と小児で「10の徴候」は多少異なる。

 成人では、「1年に2回以上中耳炎にかかる」「1年に2回以上、重症副鼻腔炎を繰り返す」「体重減少を伴う慢性下痢症が見られる」など。

 小児では「気管支拡張症を発症する」「1年に2回以上肺炎を繰り返す」「抗菌薬を服用しても2カ月以上治癒しない」など。

 詳しくは、武田薬品工業の「PIDチェックシート」を見るといい。

「『10の徴候』の中でも特に重視するのが家族歴です。患者さんによくよく話を聞くと、乳幼児期に感染症で死亡した人がいるという話が出てくることがあります」

 PIDの診断は4段階で行う。10の徴候に該当する場合、最初の段階で調べるのが、免疫に関係する白血球の状態など。血液検査なので、一般の臨床医でも調べられる。最終的にはPID専門施設の受診が必要となるが、数は少ないものの、各都道府県に施設がある。

 日本免疫不全・自己炎症学会のホームページで紹介されている。

◆50歳でPIDを発症

 幼少期から気管支炎、肺炎、中耳炎、へんとう炎、胃腸炎といった感染症を繰り返してきた50代の女性医師(本文中に登場)。PIDと分かったのは50歳の時。治療が始まると、これまでのようなひどい感染症を繰り返さなくなり、「第二の人生が始まった」と感じたという。

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