漢方薬の添付文書には、「通常、成人1日○グラムを2~3回に分割し、食前(食事の30分前)又は食間(食事の2時間後)に経口投与する」と記載されていて、その通りに処方されている方が多いと思います。そこで、今回はなぜ漢方薬の飲み方は食前・食間なのかについて説明します。ただ、あくまで“おまけ”程度にご一読いただければ幸いです。
漢方薬以外の医薬品でも、生薬由来のものがあるということを以前お伝えしました。麻黄(まおう)の主成分であるエフェドリンなどが該当します。じつはエフェドリンに限らず、こういった医薬品の飲み方は食後であることがほとんどです。では、なぜ漢方薬になると食前や食間になるのか、不思議に思いますよね。先に答えを言ってしまうと、漢方薬の飲み方とされている食前・食間には明確な根拠がないそうです。
東洋医学である漢方薬の起源は中国です。昔、中国では漢方薬はお茶代わりに飲まれていました。お茶というと食事中にも飲んだりすると思われますが、ここで言うお茶は食事前に喉を潤したり、仕事の合間などにほっと一息つくためのお茶を意味しています。「ティータイム」のお茶と言うとイメージしやすいでしょうか。この習慣が現在になっても残っていて、そのために漢方薬の飲み方が食前や食間になっていると考えられます。つまり、漢方薬の飲み方にはあまり深い意味や明確な根拠はないということになります。
食前や食間という飲み方は、クスリが食事の影響を受けにくいという点で重要な服用方法です。しかしその一方、胃が空っぽの状態であるため、飲み込んだクスリが直接、胃に触れるリスクが高まり、胃腸障害を起こすようなクスリの影響を受けやすい(副作用が出やすくなる)という面もあります。もちろん漢方薬の副作用にも胃部不快感などの消化器症状はあります。ただ、胃腸を傷つけるような重篤なものではないので、食前や食間に飲んでいただいても何ら問題ありません。
漢方薬は一般的に一度に飲む量が多い傾向があるので、特に食前に飲むとお腹がいっぱいになってしまって十分に食事がとれないという方もいらっしゃるかもしれません。また、その独特な香りが食事に影響するケースもあるでしょう。そういった場合は、主治医と相談の上、飲み方を食後に変更してもらうのもひとつの手です。
誤解しないでいただきたいのは、決して食後という飲み方を無条件で推奨しているわけではありません。添付文書に記載されている飲み方を実践するのが大原則です。ただ、そうした側面があるということを知るだけでも、クスリがより身近なものに感じられるようになるのではないかと思いお話ししました。漢方薬、とても奥が深いです!
高齢者の正しいクスリとの付き合い方