重症では手だてがなかった「円形脱毛症」にリウマチ治療薬が効果大

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 昨年6月、主に関節リウマチの治療に使われるJAK阻害薬「オルミエント」(一般名バリシチニブ)の適応として、重症の「円形脱毛症」が追加された。これまで、重症の円形脱毛症に対しては有効な治療薬がなかっただけに期待されている。円形脱毛症は100人に2人の頻度でみられ、誰でも突然発症する可能性がある。しっかり知識を身に付けておきたい。西新宿サテライトクリニック院長の坪井良治氏に詳しく聞いた。

「円形脱毛症は、円形や楕円形の脱毛斑が生じる疾患で、これまでストレスが原因と考えられていました。しかし、実際は自己免疫機序によって発症します。頭皮の内側には『毛包』と呼ばれる毛根を中心にした皮膚組織があり、通常は、体内に侵入したウイルスや細菌などの異物を排除するリンパ球からの攻撃を受けないように守られています。しかし、免疫機能の異常など何らかのトラブルが起こると、一部のリンパ球が毛包を異物と勘違いして攻撃してしまい、脱毛が起こるのです」

 遺伝的要素も円形脱毛症の原因のひとつだ。家庭内発生が10%あることから、発症しやすい体質が遺伝すると考えられている。また、円形脱毛症患者のうち、40%の人がアトピー性皮膚炎を合併し、リウマチや膠原病などの甲状腺の病気と合併する率は15%という報告がある。ほかにもケガや手術、発熱などでリンパ球が変動すると発症するケースもある。

「円形脱毛症は、人種や性別、年代を問わず誰でも発症する可能性があります。当院では年間約5000人が来院し、そのうち6~7割が円形脱毛症の患者さんです。患者さんは男性よりも、見た目に気を使う女性に多い印象があります」

 円形脱毛症のタイプは大きく6つに分類され、脱毛面積の範囲により重症度が診断される。

①単発型:頭部に1カ所のみ円形の脱毛がみられる。②多発型:脱毛部位が複数みられる。③蛇行型:脱毛の形状が細長く、後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状の脱毛がみられる。④急速進行型:急速に頭部の脱毛が始まり、その後頭部全体が脱毛する。⑤全頭型:頭部全体に脱毛がみられる。⑥汎発型:頭部だけでなく、眉毛やまつげ、体毛など全身に脱毛がみられる。

「単発型など軽症の患者さんの約80%は、特に治療をしなくても1年以内に自然に自己免疫の状態が正常に戻り発毛するといわれていますが、5%の人は悪化して全頭型や汎発型に移行します。重症度や脱毛面積の広さ、脱毛期間の長さなどが悪化の要因となるので、脱毛を見つけたら早い段階で皮膚科を受診してください」

 治療は一般的に抗炎症作用を持つステロイドの塗り薬や局所注射のほか、クリニックによっては脱毛部分に液体窒素を当てる冷却療法や紫外線療法を行う。軽症の場合、これらの治療法で症状は回復するが、回復がみられない中等度以上では、患部にあえてかぶれを起こし、発毛を促進する局所免疫療法が行われる。

 重症とされる全頭型や汎発型に有効な治療法はこれまでなかったが、冒頭で触れたように、昨夏にオルミエントが初の治療薬として承認された。

「オルミエントは円形脱毛症治療薬の中で唯一世界基準で治療効果が証明された薬です。内服治療の対象は15歳以上で、脱毛面積が頭部全体の50%以上、かつ半年間以上治療の効果がみられなかった重症者のみ対象です。治療効果を判断するために1年間継続して服用するのをお勧めしますが、保険適用にもかかわらず自己負担額が毎月5万円前後と高額で、まだ患者さんの負担が大きいのが現状です」

 昨年発表された国際臨床試験のデータによると、オルミエントの服用を9カ月間継続すると、約40%の人の脱毛面積が20%(ウィッグを着用しなくても地毛で隠せる範囲)まで低下したことからも高い効果を期待できる。副作用は少ないとされているが、まれにヘルペスや鼻咽頭炎、コレステロール値の上昇がみられたとの報告もある。リスクについて事前に認識しておきたい。

■ウィッグの着用で精神的な問題を解決

 円形脱毛症は症状の増悪を繰り返すのが特徴なので、1カ月に1~2回ほど受診して、発毛するまで通院する必要がある。症状に合った適切な治療を行うと毛包の炎症が抑えられ脱毛の症状は改善していくので、根気強く治療を継続することが大切になる。

 ただし、必ずしも治療による症状の改善にこだわる必要はないという。

「外見の問題で悩んでいる方は、医療用ウィッグの着用も有効です。劣等感が減り、精神的にも安定します。ウィッグの着用によって精神的な問題が解決されれば、無理に治療に固執する必要はありません。円形脱毛症は生命を脅かす病気ではありませんので、過度に不安にならず目標を持ち、明るく生きることが大切なのです」

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