感染症別 正しいクスリの使い方

【麻疹】感染力が強く手洗いやマスクだけでは予防できない

ワクチン接種が最も有効な予防法
ワクチン接種が最も有効な予防法

「麻疹」とは一般的に「はしか」とも呼ばれ、麻疹ウイルスに感染することによって引き起こされる急性の全身感染症です。語源には、「芒(はしか・のぎ)」とする説があります。芒とは、稲や麦などイネ科植物の穂先の針のようにとがった硬い毛のことで、麻疹にかかるとこれに触れたかのように痛がゆくなることから、「はしか」と呼ばれるようになったともいわれています。

 麻疹ウイルスの感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染で、ヒトからヒトへ伝播し、その感染力は非常に強いといわれています。免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症しますが、一度、麻疹ウイルスに感染したり予防接種を受けたりすると一生免疫が持続するため、麻疹を発症することはないとされています。

 感染すると約10日後に発熱やせき、鼻水といった風邪のような症状が現れます。2~3日熱が続いた後、39度以上の高熱と発疹が生じます。この発疹が麻の実のように見えることから麻疹と名付けられたという説もあります。

 肺炎や中耳炎を合併しやすく、患者1000人に1人の割合で脳炎が発症するといわれています。重症化すると乳幼児などでは命を落とすケースもあり、死亡する割合は、先進国であっても1000人に1人と報告されています。

 その他の合併症として、10万人に1人程度と頻度は高くないものの、麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することがあります。知能低下や性格変化などが起こり、大脳機能が障害されてやがて死に至る深刻な疾患です。

 麻疹は感染力が非常に強く、空気感染もするので、手洗いやマスクだけでは予防ができません。このため、ワクチン接種が最も有効な予防法です。日本では1歳児と小学校入学前1年間の幼児期に1回ずつワクチンを接種することが定期化されていて、ワクチン接種により95%程度の人が免疫を獲得することができるといわれています。

「大人の麻疹」は重症化しやすいともいわれています。過去に予防接種をした記録がない方や感染したかどうか曖昧な方は、一度抗体検査を受けることをおすすめします。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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