「大人の麻疹」に気をつけろ 重症化や合併症のリスクが高い

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 麻疹(はしか)の感染報告が全国で相次いでいる。今月12日、都内在住の30代と40代の男女2人に感染が確認されたと東京都が発表。16日には加藤厚労大臣も会見で注意を呼びかけている。以前は、麻疹の感染は1歳児が最多で、大半は0~4歳児が占めていた。しかし近年は麻疹ウイルスに免疫がない成人にも増加しているうえ、小児に比べて重症化しやすいといわれているから注意が必要だ。池袋大谷クリニック院長の大谷義夫氏に詳しく聞いた。

「麻疹は空気感染でうつります。感染力はインフルエンザの10倍以上と極めて強い。ワクチン未接種者や1回のみの人、麻疹の感染歴がない人が感染者と同じ空間で過ごすと、ほぼ100%の確率で感染し発症します」

 麻疹ウイルスに感染すると、10~12日の潜伏期間を経て、発熱や咳が2~4日続き、咳、鼻水、くしゃみ、結膜炎などの症状が現れる。熱が半日下がったのち、39度を超える高熱が再び出て、口の中にコプリック斑と呼ばれる白い斑点が発生する。その後、痛みや痒みを伴わない発疹が耳や首、額に生じ、徐々に全身に広がっていく。症状は7~10日間続き、合併症がなければ10日後に症状は回復する。

 ただ大人の場合では、高熱や発疹が長く続く傾向があるうえ、合併症も起こしやすいとされている。

「合併症で最も多いのが中耳炎で、麻疹患者の5~15%に見られ、肺炎は6%に認められると報告されています。脳炎は1000人に0.5~1人発症するとされ、約60%は完全に回復しますが、思春期以降に麻疹にかかり脳炎を合併した場合、患者さんの25%に中枢神経系の後遺症が残ります。具体的な症状は、精神発達遅滞、痙攣、行動異常で、致死率は約15%と、危険性はかなり高い。糖尿病を患っている人や、がん治療で免疫力が弱っている人は特に注意が必要です」

 重症化したり深刻な合併症を防ぐためには、何より感染対策が重要だ。

「現在、麻疹に対する抗ウイルス薬はなく、解熱鎮痛剤の処方による対症療法しか治療法はありません。感染対策としてマスク着用や手洗いの効果は弱く、唯一の予防法は2回のワクチン接種だけです」

 麻疹ワクチンは1978年10月から1回の定期接種が実施されたものの、未接種世代や1回接種の世代がいる。麻疹の罹患歴がない場合は免疫を十分に獲得できていないため、以下に該当する人は注意したい。

・1972年9月30日以前生まれ(1回も接種していない可能性が高い)
・1972年10月1日生まれ~1990年4月1日生まれ(1回のみ接種の可能性が高い)
・1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれ(2008年から5年間行われた追加接種の対象者だが、その間に接種していなければ1回のみの接種の可能性が高い)

■罹患歴とワクチン接種歴をチェック

「ワクチンによる免疫獲得率は1回接種で93~95%以上、2回接種で97~99%以上との報告から、2回のワクチン接種がより有効であると分かっています。ワクチンの予防接種履歴が確認できる母子手帳が手元になかったり、ワクチン未接種または1回のみの接種で、『過去に麻疹に感染した』と断言できない人は抗体検査で免疫の有無を確認するといいでしょう」

 ただし、ワクチンを2回接種している人でもまれに十分な免疫を持たないケースがある。その場合、高熱が出ず発疹が全身に現れない軽症の「修飾麻疹」を発症する危険性がある。風邪と勘違いして知らないうちに周囲の人へうつすリスクがある。

 追加接種は保険適応外なので自費になる。目安は、麻疹単独ワクチンは6000円前後、MR(麻疹・風疹混合)ワクチンは1万円前後だ。

「また、妊娠中に麻疹に感染すると、流産や早産だけでなく、肺炎を引き起こし重症化しやすい。妊娠中はワクチンの接種ができないので、2回接種していない人は妊活前にパートナーと共にワクチンを打っておく必要があります。麻疹と間違われやすい風疹は、妊婦が感染すると先天性風疹症候群を引き起こす危険性があります。風疹予防を目的に自治体によっては無料でMRワクチンを受けられる地域もある。制度を利用すると、費用を抑えて接種できます」

 今後の感染拡大に備えて、早期にワクチンを打っておきたい。

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