治療を受けてもよくならない…それは「心臓の肥満」かもしれない

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 心臓の機能が低下して、心不全や狭心症と診断され、治療を続けているのになかなか改善しない……そんな状況に悩んでいる人は、心臓や血管に中性脂肪がたまって起こる“心臓の肥満症”かもしれない。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

 肉、魚、卵などに含まれる中性脂肪は、体内にエネルギーを貯蔵する役割がある。しかし、エネルギーとして使われなかった余分な中性脂肪は、皮下脂肪、筋肉、肝臓などの臓器に蓄積され、脂肪肝、糖尿病、動脈硬化症や心臓血管病といったさまざまな生活習慣関連病の原因になる。

 その中性脂肪が、心臓の筋肉=心筋や冠動脈の細胞内にたまってしまったことで心臓肥大や中性脂肪蓄積型の動脈硬化を招き、重症の心不全や虚血性心疾患を起こすのが「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」と呼ばれる疾患だ。

「TGCVは2008年に日本で発見された新しい疾患です。本来なら体内の脂肪細胞に蓄積する中性脂肪が、ほかの細胞である心筋細胞や冠動脈の平滑筋細胞などにたまり、心臓が脂肪細胞の塊のようになって中性脂肪を蓄えてしまう、いわば『心臓の肥満』によって心筋障害が引き起こされ、重症の心不全、狭心症、心筋症、不整脈などを招きます。正常な心筋細胞は、長鎖脂肪酸を取り込んで代謝し、エネルギー源として利用していますが、TGCVの患者は長鎖脂肪酸を利用できずに中性脂肪として蓄積するため、エネルギー不全や脂肪毒性によって心筋障害が生じると考えられています」

 日本でTGCVと診断された患者は2020年時点で300人強だが、潜在患者数は4万~5万人と推定されている。TGCVは、血中の中性脂肪の数値やBMI(体格指数)からは判断できないため、健康診断や人間ドックではなかなか見つからない。国内でも海外でもまだあまり知られていないこともあり、実際はTGCVなのに、心不全や狭心症などと診断され、治療が行われているケースが少なくないという。

■新薬の開発が進んでいる

「現時点ではTGCVに対する根本的な治療法はまだありません。そのため従来の心不全や狭心症、不整脈に対する標準治療が行われていますが、効果はそれほど期待できないのが現状です。そこで、厚労省の難治性疾患克服研究事業として、診断や治療の研究が進められています」

 TGCVを発見し、研究を主導してきた大阪大学の研究グループによる初のTGCV治療薬の研究も進んでいる。中鎖脂肪酸のひとつであるカプリン酸に心筋細胞内にたまった中性脂肪を分解する作用があることがわかり、カプリン酸を主成分とした治療薬が開発された。現在、有効性を検討する臨床試験が行われている。今年の10月末に終了予定で、25年の承認取得を目指しているという。

 前述したように、TGCVは発見しにくい。心不全や狭心症の治療を続けているがなかなか改善しない場合は、治療薬の早期の実用化にも期待して、まずはTGCVかどうかを確認しておいたほうがいい。

「TGCVが疑われる場合、『心筋脂肪酸代謝シンチグラフィー検査』を受けることが大切です。長鎖脂肪酸を投与してから、心筋細胞内での中性脂肪の分解の程度や消費量を放射線医薬品を使い画像化して調べる検査です。ほかにCTやレントゲン検査で冠動脈全体の動脈硬化の状態を調べたり、中性脂肪の代謝異常と関係している白血球の異常を確認する検査も有効です」

 TGCVがあると、生来健康な人に20代以降から中年までに心症状が出現し、動悸、息切れ、労作時の呼吸困難、疲労感、浮腫などが見られる。深刻な心臓疾患につながる前に早期発見することが大切なので、気になる胸の症状や脂質異常がある人は早いうちに専門医に相談したい。

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