名医が答える病気と体の悩み

認知症になるとお風呂を嫌がるのはなぜか…入浴を促すには?

お風呂が楽しくなるように話しかけて
お風呂が楽しくなるように話しかけて

 認知症の親がもう2週間も入浴していないのですが、どうやって促したらいいのでしょうか--。介護するご家族から相談を受ける機会がしばしばあります。お風呂は毎日入るといった認識を持つ私たちは、入浴してもらおうと必死になり説明や説得を試みます。それでも認知症の方は「入らない」と強いこだわりを示すので、毎日介護する家族は疲弊するでしょう。

 入浴を拒否する理由で考えられるのは、「毎日お風呂に入っている(と思っている)のに、家族はなぜお風呂に入ってとしつこく言うのか」「みんなは服を着ているのにどうして私だけ裸になるのか」「無理やり脱がされて怖い」という気持ちです。認知症の症状のひとつに、行動そのものをすっかり忘れる「全体記憶の障害」があります。家族が認知症の方へ「においが気になるのでそろそろ入りましょう」「もう何日も入浴していませんよ」とストレートに伝えても、本人は毎日入浴していると思っているので、プライドが傷つき興奮します。時には暴言を吐いたり暴力を振るうケースも少なくありません。

 入浴を促すために、家族は「いい温度のお湯で気持ちがいいですよ」「私も入るので一緒にどうですか」など、お風呂に入りたいと思わせる言葉がけを意識するといいでしょう。「お風呂からあがったら一杯飲みましょう」と、入浴後の楽しみをつくると、機嫌よく入浴してくれます。裸を見られたくない方に対しては、濡れても洗濯すればいいので下着を身に着けたまま入浴してもらって構いません。介護者が入浴の際に強引に脱がせようとすると、恐怖心から拒絶反応が起こります。普段から脱ぎ着しやすい洋服を着ると自分で脱衣できます。また、一度に全身を洗おうと思わず、シャワーだけ、足湯だけなど、そのときにできることをひとつずつ行うといいでしょう。認知症の方がなぜ嫌がるのか、その気持ちを考えて理解する必要があります。介護者は認知症の方を常に自分に置き換えて、自分がされたらどう思うか考え接することが大切です。

 入浴拒否が何週間も続くと、家族は認知症の方の衛生面が心配になり入浴してほしいと思うでしょう。無理やり行うと拒否はさらに強くなり、家のお風呂に嫌なイメージが染みつきます。入浴拒否で困った場合には、デイサービスや訪問入浴サービスを利用するのもお勧めです。

▽杉山孝博(すぎやま・たかひろ) 1973年東京大学医学部卒業後、東大医学部付属病院で内科研修。75年に川崎幸病院に内科医として勤務し、87年からは同院にて副院長を務める。98年から川崎幸病院の外来部門を独立させた川崎幸クリニックが設立され、現在まで院長を務める。81年から公益社団法人「認知症の人と家族の会」に参加し、現在は神奈川県支部の代表を務める。著書に「マンガでわかる認知症の9大法則と1原則」など多数。

関連記事