前立腺がん治療最前線…がんだけを狙い撃ち、尿失禁ゼロの先進医療

狙い撃ち治療法は患者の負荷も小さく非再発率も高成績
狙い撃ち治療法は患者の負荷も小さく非再発率も高成績(C)日刊ゲンダイ

 2017年以降、男性のがん1位をキープするのが前立腺がんだ。この前立腺がんの最新治療が厚労省の「先進医療B」に認定、2月から適用されている。実施責任者である東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学准教授、小路直医師に話を聞いた。

 今回、先進医療Bに認定されたのは「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺がん標的局所療法」。

 ごく簡単に説明すると、HIFU(高密度焦点式超音波療法=ハイフ)という強力な超音波を用いて、標的である前立腺がんだけを狙い撃ちする方法。周辺組織への影響は最小限に抑えられる。これによって従来法では高確率で起きていた術後の尿失禁、勃起障害のリスクを大幅に下げられる。

「たとえば外科手術では、ロボットという最新機器を用いても術後12カ月目の尿失禁率は10.3~30.8%、勃起可能率は7.1~54.5%。しかし、前立腺がんを狙い撃ちする治療法では、私たちの研究で尿失禁率0%、治療前に勃起が認められた患者さんでは勃起温存率が70%でした」

 患者の負荷が小さくても「がんの取り残し↓再発」のリスクが高ければ論外だ。しかしそれにおいても、非再発率は12~24カ月間で92.2%という高成績を保っている。

 HIFUでは、強力な超音波で細胞を破壊する。実は、HIFU自体はそう新しい治療法ではない。日本や諸外国で1999年から行われるようになったが、当時は前立腺全体への治療で、尿道狭窄が生じて排尿が困難になるという課題があり、存在感が薄れていったという。HIFUの「狙い撃ち」という特徴を最大限に生かせられるようになったのは、治療機器の技術や生検技術が向上したからだ。

「『前立腺がんか、あるいは正常か』ではなく、『どこに、どのくらいの大きさのがんが、どの程度の悪性度で存在するのか』まで診断できるようになったのです」

 前立腺がんが治療に至る一般的な流れは、「PSAという腫瘍マーカーが高値↓前立腺に数カ所針を刺し組織を採取。顕微鏡で観察(生検)↓がんなら標準治療の外科手術または放射線治療」。ここに課題がある。

「生検で針を刺していない場所にがんがあると、がんを見逃されるリスクがある。熟練した医師でも、そのリスクは一定数あります」

■先進医療認定で自己負担額が減る

 小路医師は現在PSA値が高い場合、まず行うのは特別な方法によるMRI(マルチパラメトリックMRI)。2009年に米国の医師が発見した撮影法で、精度が通常の撮り方より高い。この結果でがんの疑いが強ければ生検を実施、そうでなければ数カ月後に再検査としている。

 さらに生検においても、事前に撮ったMRI画像と超音波画像を融合。ナビゲーションを用いて、がんが疑われる場所に確実に生検針が刺さるようにする。この新たな診断プロセスによって、がん検出率は80%以上にも上るという。

 早期の前立腺がんは、がんの分布によって大きく3つのタイプに分けられる。「多発」「限局」「低悪性度」だ。

「がんが多発していれば、前立腺全体を治療する外科的切除や放射線治療となります。低悪性度なら、慎重な経過観察(監視療法)を勧めます。一方、限局タイプであれば、外科的切除や放射線治療も可能ではあるものの、術後の尿失禁や勃起障害を免れるのは難しい。そこで、HIFUでがんだけを狙い撃ちするのです」

 HIFUで前立腺組織が破壊されるとむくみが生じる。むくみで前立腺が動くと、狙い撃ちは難しくなる。そこで小路医師は、むくみで生じる前立腺体積の変化や変異を測定し、世界で初めて定量化。治療前にあらかじめ前立腺を圧迫して動かなくする方法を考案し、確実に「標的局所療法」をできるようにした。

 先進医療は、いまだ保険診療の対象とならない治療に対し、保険診療との併用を認めたものだ。

「先進医療として承認されたことで、自費診療と比較し、患者さんの自己負担額が減少します」

 家族や身近な人が前立腺がんの疑いあり、と言われることがあるかもしれない。この新たな選択肢があることを覚えておきたい。

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