突然の頭痛や首痛は…くも膜下出血を招く「椎骨動脈解離」かもしれない

働き盛りの男性が多い
働き盛りの男性が多い

 くも膜下出血を引き起こす一因となる解離性脳動脈瘤という疾患がある。2019年7月、ジャニーズ事務所社長のジャニー喜多川氏(当時87歳)は解離性脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で亡くなった。また昨年、「千鳥」のノブ(43)や「ダイアン」のユースケ(46)は椎骨動脈解離が休養の原因になった。椎骨動脈解離と解離性脳動脈瘤について、東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座主任教授の村山雄一氏に詳しく聞いた。

 脳へ向かう動脈は、首の前側を走る頚動脈と後ろ側を走る椎骨動脈があり、動脈は内膜・中膜・外膜の3層で構成されている。

 何らかの原因で椎骨動脈の内膜に亀裂が入り、血液が内膜と中膜の間や中膜と外膜の間へ流れ出た状態が「椎骨動脈解離」だ。これにより、中膜や外膜へ血液が流れ出て血管が風船状に膨らんでしまった状態が「解離性脳動脈瘤」で、80~90%が椎骨動脈に生じるとされている。

「くも膜下出血は、脳動脈瘤の破裂により発症します。一般的には、『嚢状動脈瘤』と呼ばれる、解離した動脈と動脈の分岐点に発生するコブ状の脳動脈瘤の破裂が最も多く見られます。また、椎骨動脈解離によって生じた解離性脳動脈瘤も、最悪のケースではくも膜下出血などの脳卒中を引き起こす危険があるので注意が必要です」

 解離性脳動脈瘤によって発症する可能性がある2次障害は次の3つが挙げられる。

【頭痛のみ】亀裂が内膜から中膜まで及んだものの動脈瘤が破裂せず頭痛の症状のみで収まるタイプ。

【脳梗塞】亀裂によって流れ出た血液が内膜と中膜との間に入り込み、血管が狭まり塞がった状態。

【くも膜下出血】亀裂により内膜から流れ出た血液が外膜でとどまらず破裂し、血管外へ出血した状態。

■高血圧の中高年は要注意

 くも膜下出血は、脳動脈瘤の破裂とともにバットで殴られたような激しい頭痛の症状が特徴で、致命率は30%と、脳卒中の中でも最も予後が悪い。くも膜下出血を発症させないためにも、「椎骨動脈解離」の予防が大切だ。普段から高血圧で動脈硬化の傾向がある人は特に気を付けたい。

「椎骨動脈解離で当院を受診される患者さんは年間約10人ほどで50~60代の働き盛りの男性が多いです。こうした男性は社会的責任から抱えるストレスが重く、過労で睡眠不足になりがちです。ストレスや睡眠不足は高血圧を招き、椎骨動脈解離を起こしやすくします」

 血圧(正常値:140/90㎜Hg以下)は起床とともに上がり、夜間にかけて徐々に下がって睡眠時に最も低くなる。しかし、睡眠障害で睡眠時に何度も目覚めるとそのたびに脳が覚醒して交感神経が活性化し、夜間でも高血圧の状態になる。椎骨動脈解離を防ぐためにも、普段から高血圧の人は睡眠時間をしっかり確保する必要がある。

「痛み」にも注意したい。

「椎骨動脈解離の主な症状は、首の後ろの痛みや頭痛です。痛みの程度は人それぞれで、耐えられる程度の痛みや今までに体験したことがない激しい痛みを訴える人もいます。整体で過度に首を動かしたり、ゴルフやジムで急に首を動かした際に解離が起こることもあります。首や頭に激しい痛みを感じたら、脳神経外科を受診して画像検査を受けてください」

 診断はMRIや3D-CTAなどの画像検査で行われ、超音波やレントゲンでは椎骨動脈解離は発見できない。首の後ろの痛みで整形外科を受診し、「肩こり」や「寝違え」とされて見逃されるケースも少なくないので、早期発見するためにも椎骨動脈解離の診断が可能な専門医を受診することが大切だ。

「画像診断で解離性脳動脈瘤が発見されても、小さくて破裂する危険性がなければ、手術の必要はありません。痛みに対しては鎮痛薬を処方し、経過観察を行います。血圧が上がると動脈瘤が破裂する危険があり、ストレスは血圧を上昇させます。仕事でストレスを感じている人は経過観察中は仕事から離れ、血圧が上がらないように1カ月間は自宅で安静にしてください」

 椎骨動脈解離を発症後、定期的な画像検査で動脈瘤が大きくなっていないか、出血していないかを確認し、発症から2週間たっても変化がなければ、今後出血する可能性は低いという。くも膜下出血の主な原因となる嚢状動脈瘤は、見つかった時点で5ミリ以上の大きさがあれば手術が必要な一方で、解離性脳動脈瘤は血圧を下げて経過観察をしているうちに、動脈瘤の膨らみが小さくなり自然に修復する症例もあるという。

「脳動脈瘤があっても痛みの症状が現れない人もいます。脳動脈瘤は自分で画像検査を受けに行かない限り、発見できません。40歳を過ぎたら一度、脳ドックを受けてみるといいでしょう」

関連記事